 企画特集 |
［まえうみ食紀行］ |
ウミタケ㊤ 「イカ飯」より濃厚な味わい
|
 |
| 右はコメが詰まったウミタケ飯。左下は生のウミタケ。長さ３０センチもある。左上は干物 | 太くて長く黒い水管は３０、４０センチにもなる。貝とは思えないグロテスクな姿。無数にしわがあり、「象の鼻」を思わせるのが、せめてもの愛きょうだ。しかし、その姿からは想像もつかないほど深い味わいを持つ。
◆ ◆
川副町小々森の井手芳夫さん（６７）は、ノリの収穫が終わると、ウミタケ取りに精を出す。ウミタケ飯の作り方は母親から習ったという。
殻つきのものは、包丁で水管部を切り離す。生きているものは、包丁の刃を入れると、水管がきゅっと縮まるので、びっくりする。ウミタケだって痛いのだろう。水管の中を手早くきれいに洗い、縮まったものを皮が破れないよう手で優しく広げておく。鮮魚店で水管部だけのものも売っているので、気の弱い人はそちらを買うとよい。
コメを洗い、水８、しょうゆ２、塩少々の汁の中に１０分ほど浸した後、水管に詰める。はしでつついて奥まで詰め込み、たこ糸で上下を縛る。コメを浸した汁を鍋に移して沸かし、水管を入れて４０分ほど煮込む。イカ飯の要領だ。ウミタケから濃厚なだしが出るので、他に調味料はいらない。輪切にして皿に盛ると、立派なおかず。酒のつまみにも最高だ。イカ飯よりずっと味が濃い。
戦後、コメ不足でコーリャンなどが配給されたが、まずいので、母親がウミタケに詰めて炊き、食べさせてくれたという。思い出の味だ。
◆ ◆
水管部は刺し身でもよく食べる。さっと酒をふりかけてバター焼きにしてもおいしい。さらにうまみを出すのが一夜干しだ。開いて干したものを冷凍して保存する。これをあぶって食べると、甘みとこく深い味わいが口中に広がる。からからに乾燥したものは、焼いてから、さっと湯につけて裂き、しょうゆ大さじ１、砂糖小さじ１のたれにつけて食べる。イカの身は横に裂けるが、ウミタケは縦に裂けるのも特徴だ。細く裂けば裂くほどおいしいという。
井手さんはウミタケを、ねじ棒という道具で取る。ウミタケは殻と水管の大部分が泥の中にあり、水管の先端を水中に伸ばして水を吸ったり吐いたりしている。ねじ棒は、長い棒の先に約４０センチの鉄棒を十字形に取り付けたもので、船の上から垂直に下ろして海底に突き刺し、棒を１回転させ、水管を引っかける。うまく取れるようになるには年期がいる。独特の伝統漁法だ。
（佐賀支局長 占部
正彦）
|
| （5/19） | .gif) |
天気 
