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穴吹史士が書いた記事

AICキャスターclick
2003/03/31

アレルギー犬
花粉症対策用と思われる大きな紙製のマスクをした人を、よく見かける。隣席の同僚も花粉症で、天気のよい日はいつも、目をしょぼしょぼさせ、苦しげに洟をかんでいる。私自身は、いまのところ花粉症には無縁で、罹患者の苦しみをさっぱり理解できず、申し訳ないことである。

うちの家系の免疫機構は、おおざっぱにできているのか、縁者を見渡したところ、アレルギーに悩んでいる者を見たことがない。何を食べてもオッケー、何に触れてもオッケー。のんきなものである。

例外がひとつ。飼い犬である。メスの柴犬、３歳半。１年くらい前から、体じゅうを掻き始め、毛がばんばん抜けて、ところどころ血がにじむ。獣医で見てもらったところ、「アレルギーです」。犬にアレルギー？　けっこうあるのだというが、うちの犬は特別多彩で、「抗原が20ばかり」。小麦だめ、米だめ、あれだめ、これだめ、化繊だめ、何種かの草だめ、の、だめだめ尽くし。

完治は絶望。症状を抑えるために、高価な薬を定期的に服用している。食事時、脇からもの欲しそうに食卓を見上げるので、つい仏心が出て、ご飯粒やパンの切れ端を与え、それが私と犬とのほとんど唯一の心の交流だったのだが、その慣行は直ちにうち切られた。食事は、アレルギー専用ドッグフードのみ。普通のペットフードより高いらしい。

カーペットやこたつ布団、座布団もアレルギーを誘発しない木綿製に取り換え、これも相当の出費である。それでも、家の中にはえたいの知れないハウスダストが飛び交い、散歩に出れば、草に全く触れないわけにはいかない。血がにじむほどではないが、相変わらずぼりぼり体を掻いている。

とくに目の周辺が痒いらしい。掻きまくったあげく、目の回りの毛が抜けて、黒く隈取りしたようになり、眉毛が抜けた跡は、逆に白っぽくはげている。腹から尻にかけても広い範囲で毛が抜け、肛門まるだし。３歳の柴犬というえば、毛並みに艶が出て、可愛い盛りなのだろうが、うちの犬は、まったく無残である。しかし、「おい、おまえ、そんなかっこうで、可哀想に」と、以前よりむしろいとおしく思えてくるから、不思議だ。

それにしても、３歳やそこらで、20いくつもの抗体がよくできるものである。以前散歩のとき、草に顔を突っ込んだ拍子に、でかいダニに鼻の頭を食いつかれたことがある。獣医に駆け込んで、ダニをピンセットで引っこ抜いてもらったのだが、そのダニこそあらゆる抗原をはらんだアレルギーの原因と、家族は思っているようだ。