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穴吹史士が書いた記事

AICキャスターclick
2005/02/07

コートレスな人たち
この季節にコートを着ない人間が、身近に、会社の同僚だが、２人いる。通勤電車の中を見回して、コートもジャンパーもなしという乗客を見つけるのは、かなり難しい。身近に２人というのは、多い、多すぎかも、と、いわざるをえない。まあ、みんながみんなコートを着ているというのも、ちょっと不気味ではあるが。

なぜコートを着ないのか、それぞれに聞いてみた。当人たちにとっては、別に不思議でもなんでもない話で、改めて理由を尋ねられて、理路整然と説明できる種類のものではなかったらしいが、なんとか聞き出したところによると。

１人目は、少年期までを関西で育った。瀬戸内海に面して、気候が温暖なこともあって、小学校と中学校を半ズボンで過ごす。もちろんコートなど着たことがなかった。高校で東京へ転居、まさか半ズボンというわけにはゆかず、長ズボンでコートも人並みに着たらしい。

就職してからも人並みのファッションで過ごしていたが、大阪へ転勤したとたん、幼児の半ズボン記憶がよみがえり、まさか半ズボンというわけにもゆかず、とりあえず、コートなしでしのいでみたら、とくに問題も起こらず……。

東京へ戻ることになったとき、コート購入を考えなかったわけではなかったらしい。だが、ちょうど３月で、さすがに半ズボンというわけにはいかないだろうけど、ぼちぼち暖かくなるんだし、と、そのままの出で立ちを通した。夏が過ぎ、秋が往き、冬が来ても、とくに支障がない。以来、10数年、ずっとコートレスな暮らしを続けているのだという。

もう１人もまた、幼児期から学生時代を、ずっと関西で過ごした。「ぼくの場合は、小学校のころから、ジャンパーを電車の網棚に、脱ぎ忘れてくる癖があったんです。もうなんぼ忘れてきたか、わからへんほどですわ。それで、どうせなくすんやから、最初から着とかんとこ」と、こちらは30年以上の年季入りコートレス。

そういわれると、見知って相当の年月になるが、コートを着ているところを見たことがない。それどころか、室内でも屋外でも、いつも半袖。もちろん、冬でもである。「いや、いちおう上着は持ってます。でも、確かにあんまり着てませんね」。

半袖については、こだわりがあるのだという。「妻がですね、長袖のシャツを腕まくりするのは、みっともないんで、絶対したらあかんと」。しかし、ついまくってしまいそうになるので、シャツは全部半袖。

「そうそう、長袖のシャツを腕まくりするのはみっともない。ぼくはシャツは全部長袖ですが、絶対に腕まくりはしません」と、先のコートレスが同調する。コートレスには、コートレスの美学があるわけだ。

30年くらい前、当時の上役が、やはり真冬でもコートレスだった。理由を聞いてみると、自分は極寒の北海道で勤務したことがあり、普通の寒さは、コートなしで平気なのだといっていた。背が高く、背筋が伸び、コートレスがかっこよく決まる人だった。私もそういう風にさっそうと冬を過ごしたいと思ったことがあるが、そもそも体形が違い、ただコートを買うお金がないようにしか見られないに違いないと、断念。

先述２人のコートレスも、必ずしもさっそうとした体形をしているわけではない。１人はいまでも半ズボンが似合う体形だし、もう１人は、半袖シャツ以外、なにも似合いそうにない体形である。