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穴吹史士が書いた記事

AICキャスターclick
2005/06/27

大阪クイズの賞金
日曜のお昼過ぎに、ちょっとしたタイムスリップがある。テレビ朝日系で放映されている「新婚さん　いらっしゃい」と「アタック25」である。テレビを熱心に見なくなって久しいが、たまたまこの時間帯に、テレビがある居間に居合わせると、たぶん30年昔とほとんど変わらない構成の画面に、つい最後まで見入ってしまうのだ。「新婚さん」は71年から、「アタック」は75年から続いているそうだ。

テレビのクイズ番組で、回答者を一般の視聴者から公募するものが、ずいぶん少なくなったような気がする。いまは、タレントがぞろぞろ出てきて、正解したといえば騒ぎ、不正解でまた大げさに騒ぐ。ギャラを奪い合っているようで、さもしく見える。いや、芸でカネを取るならまだしも、視聴者にもできることをやって、視聴者が出演すれば、視聴者に還元されるはずのお金を、横取りしているようにも思える。最高賞金1000万円などという番組があると聞くと、腹立たしくさえなる。

タレントを回答者に起用した草分けのようなテレビ番組で、神がかり的によく当てる人物が、あらかじめ答えを教えられていたというような噂が出たこともある。同様の疑惑は、現行の番組にも散見される。番組をもり立てるためには、なんでもあり。クイズの基本である公平なチャンスを最初から踏みにじっているのだ。

「新婚さん」も「アタック」も、クイズは視聴者が回答者である。ともに大阪の朝日放送の制作らしい。だいたい大阪のクイズ番組は、生活臭があるというか、視聴者を実利に誘導するというか。ともあれ、安易にタレントを持ってこず、しつこく素人を使い続ける姿勢には、敬意を表したい。

生活臭といえば、賞品、賞金もそうで、「新婚さん」など、まだタワシが出ていたりする。いまどき、タワシで笑うか？　忘年会のビンゴゲームじゃないんだから。「アタック」も、正解パネル１枚獲得して、１万円？　放映開始から？　それとも途中で値上げして、この額？　別に非難しているわけではない。生活臭漂う設定に、すこし回りくどい形で、敬意を表しているのである。

さすがにもうなくなったが、やはり大阪の毎日放送の制作で、「アップダウンクイズ」というのがあった。これも、ふだんは一般視聴者が回答する形だった。上下するワゴンに乗って、正解なら１段上昇、間違ったら下降。上下しながら、10段上がって、てっぺんまでたどり着くと、飛行機用の移動式タラップが迎えに来て、「夢のハワイ旅行」という段取りになっていた。

ハワイ旅行はともかく、１段の賞金が、1000円だった。放送開始は、1960年代だっただろう。そのころの1000円は、たいした値打ちだったかも知れない。しかし、その後ずーっと、たぶん20年以上、1000円のままだったと思う。さすがに見ていて、クイズに必須のはらはら感を覚えなくなった。

私が週刊朝日に「デキゴトロジー」というコラムを創設したのは、78年のことだった。社内外の執筆者に、とっておきの見聞を書いてもらう欄だったが、「いい原稿を取るために、カネでほべたを叩く」という編集方針を掲げた。つまり破格の原稿料を提供すると公言したのである。

そのころ、創刊されたばかりの「月間PLAYBOY日本版」の原稿料が日本一だと、フリーライターの間でささやかれていたので、その水準を超える額、１本２万円を標榜した。「10行書いても２万円」というのは、売れっ子作家を凌ぎ、確かに日本一高かったと思う。言い訳しておくと、やみくもに付けた額ではなく、１ページあたりの編集費を記事の本数で割った得た、合理的で無理のない数字だった。

この「日本一」はそんなに長く続かなかった。ずーっと２万円に据え置かれ、通算20年以上そのままだったので、相対的に地位が低下した。20年をならして計算すると、安上がりな原稿料だったといえる。私はこれを「アップダウンクイズ方式」と呼んでいたが、はたして真意を理解してくれた者がいたかどうか。

「デキゴトロジー」開始当初、「カネでほべたを叩かれ」て、記事を書かされた記者が２人、実はこのAICに執筆している。「わは臍　筑豊」の宇佐波雄策さんと「スポーツジャーナル」の石井晃さんである。「ひとりデキゴトロジー」のシャノン・ヒギンズさんも、その欄の執筆者であったが、かれが参入したころは、すでに「日本一」でなくなっていたので、「カネでほべたを叩かれた」記憶はないだろう。

さて、その３人の原稿料であるが、実は、「デキゴトロジー」より格段に安い。「日本一」安いかも知れない。うーん、ついに、「アップダウンクイズ方式」をも、凌駕したか。人知れず微笑む大阪出身の私であった。