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穴吹史士が書いた記事

AICキャスターclick
2005/09/26

持ち歌トレード
ほぼひとまわり年が下の元同僚３人と、カラオケに繰り出す。うち１人は、何年か前に会社を辞め、料理学校から料亭厨房の修業を経て、近く割烹を開店する手はずになっている。その女将予定者がまず、クレイジーケンバンド「タイガー＆ドラゴン」で「♪俺の話を聞け～」。私は、いま取りかかっている仕事がらみで、村田英雄「花と竜」を「♪竜のほりもの、伊達ではないぞ～」と。ギャップ、ありすぎ？　いちおう、ドラゴン縛りのつもりだったんですが。

この年になると、新しく持ち歌を仕込む執念がなくなってくる。いい歌だなあ、と感動する感受性、歌ってみようという前向きの意欲、ともに衰える。最後に憶えた新曲は、確か、夏川りみ「涙そうそう」、その前が、えーっと、GLAY「Soul Love」。まあ、押さえるべきところは押さえているか。

そんなわけで、歌う歌は、いきおい昔からの持ち歌ということになる。順番が回ってきて、やっぱりドラゴン縛りで、宇崎竜童「身も心も」。「♪身も心も、身もこっころも～」と気分よく唸っていると、「その歌、私が穴吹さんにあげたのよね、桑田の『月』と交換して」と女将予定者。えー、そうだったの？　そういえば、そんな記憶がある。もう10年くらいになる。

カラオケ屋で、同席者が自分の持ち歌を先に歌ってしまったりすると、むかーっとする。同じような心理だろうか、同席者がいい歌を歌っているのを聞くと、それを横取りして、なんとか持ち歌にしたいと思う。しかし、黙ってぶんどるわけにはゆかない。そこで、譲渡交渉に入る。「身も心も」と「月」。曲、歌詞ともに素晴らしく、双方とも日本歌謡史に残るであろう名曲である。トレードとしては、極めて妥当であったといえる。

ほかにトレードで得た持ち歌に、上田正樹「悲しい色やね」がある。10数年前、これを得意としていた同僚から譲り受けた。対価は、内藤やす子「六本木ララバイ」。これも穏当な交換であろう。人間の人事でもそうだが、トレードというものは、エース同士を取り換えるのでなければ、結局は破綻する。現実には、お互い相手にババを引かせよう、引かせようとして、深い遺恨を残す人事が多い。

一方的に譲渡された歌もある。尾崎豊「I Love You」。そのころ、私の手元には、細川たかし「浪花節だよ人生は」、中村美律子「河内おとこ節」、吉幾三「雪國」の３大演歌が、トレード要員として控えていたが、いずれにも相手は興味を示さなかった。金銭トレードというわけにもゆかず、そのままになっている。