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穴吹史士が書いた記事

AICキャスターclick
2006/01/09

座敷犬→野外犬
子犬のときから家の中で飼っていた犬を、事情があって、日中は外で過ごさせることにした。初めは玄関先につないでいたが、犬を怖がる来客もあろうかと、狭い庭先に急造した縁側に移した。もう３カ月になるだろうか。

犬は当初、そんな環境の変化を歓迎せず、朝の散歩から帰り着くと、家の中に駆け込もうと足掻きまくり、また、結局は外に置かれるのがわかって、哀しげな鳴き声を上げていた。今はもう諦めたのか、１日の大半を黙って戸外で過ごしている。

ときどき様子を確かめると、この冬の記録的な寒さの中で、ガタガタと震えてたりしている。好きな場所は、こたつの中か、ファンヒーターの温風吹きだし口の前という無類の寒がり屋だったので、不憫ではある。しかし、新しく買ってやった犬小屋には、頑として入ろうとしない。ただ、犬用の温熱マットの上で身を丸くしている。

この犬については、当欄ですでに２、３回、ネタにした。その挙動の特異さを書いたところ、「ナルコレプシー犬ではないか」という指摘を精神科医から受けた。ナルコレプシーというのは、睡眠障害の一種で、人間以外では、犬にも現れることが知られているのだそうだ。その話をまた書いた。

この犬はまた、おおかたの穀物の蛋白質にアレルギー反応を見せるアトピー犬でもあり、非常に高価な医療用ドッグフードを常食、定期的に与えている治療薬も非常に高価で、まったく不経済な犬なのである。そんな話も書いた。読者から、「おたくの犬は、なんてまあ、ユニークなんでしょう」という投書までいただいた。

そんな高い食餌と薬品を与えてもなお、犬は全身が痒いらしく、しょっちゅう体中を掻いたり噛んだりしていた。それで、後ろ脚と口が届く範囲の毛が全部抜けるという事態になった。すなわち、耳の後ろから首筋、胸から腹全体、お尻の周りと尻尾の付け根がつんつるてんで、ヌードマウスのようにピンクの肌が露出。睫毛も眉毛も抜けて、ちょっとしたヤンキーでもあった。

５歳の柴犬。避妊手術済みの雌。いちおう血統書付きではあるが、もともとおよそ柴犬的な容貌をしていなかった。面長で、狐顔。尻尾もしゃんと巻かない。その上の禿げちょろけだから、散歩途中で、犬を連れた人に出会うと、「まあ、お気の毒」などといわれてしまう。それがいやで、犬が集まる公園を避けながら連れあるいていた。

その犬の毛が生えてきたのだ。明らかに外に置くようにした効用である。まず、寒さに対応するため、痒いのなんのと毛を引っこ抜いている場合でなくなったことが考えられる。室内のハウスダストから、日中は隔離された影響もあろう。戸外に出したのは、犬のアトピーとは全く関係ない事情からだったが、思わぬ結果である。

娘のボーイフレンドのお父さんが獣医で、この話を聞いて、「うーん、アトピー、治るかもなあ。そもそも、柴犬は野外で飼う犬で、座敷に上げると、アトピーになりやすいんだよねえ」といったという。ジャック・ロンドン「荒野の呼び声」を思い出す。新しく迎えた戌の年。うちの犬にとっては、まずますの滑り出しといえようか。