走婚３　走婚大王 雲南省瀘沽湖（ルークーフー）の摩梭（モーソー）人は、湖で魚を獲ったり、山間で稲やジャガイモやトウモロコシを育てたり、牛、馬、豚、山羊を飼って、ずっと暮らしてきた。四川省からチベットへお茶を運ぶ馬幇（マーパン）というキャラバンにも携わっていた。いまは観光で生きている。雲南省自体が、かつてはタバコの栽培と生産が最大産業だったのに、現在は観光収入に依存しているのだから、世の趨勢ではある。 観光資源は、妻訪い婚の風習を別にすれば、瀘沽湖しかない。湖の中ほどに、里務比（リーウーピー）島という小島があり、チベット仏教の寺院が建っている。湖岸からその島まで、船で観光客を送り迎えする。丸太をくりぬいた丸木舟で、豚のえさ箱に形が似ていることから、「猪槽船」（ツーツァオチェン）と呼ばれる。もとは漁に使っていた。 舳先に２人、艫に１人、計３人の漕ぎ手で、客７〜８人を乗せ、島まで片道約20分。私が乗った船の舳先の２人は、ともに17歳、いとこ同士の男子である。母系制社会であるから、母親同士が姉妹で、同じ老祖母の家に住んでいるのだろう。妻訪いの経験を聞くと、一方ははにかみ、一方は「こいつはもう何度も通ってるよ」といった意味の答えをした。 艫の漕ぎ手は女性で、いとこ２人の祖母だった。つまり、この船は同じファミリーのメンバーで操っているのだった。ほかの船も同様らしかった。 瀘沽湖畔の村には、約70ファミリーが住んでいる。それを約35ファミリーずつ２組に分け、１週間交代で、観光客の相手をする仕組みになっている。組はそれぞれ選挙で選ばれた組長がいて、メンバーを統率し、お金の管理をしている。私が訪ねた日は、若い誠実そうな男性が組長を務める組の担当だった。 その組長によると、１日の観光収入は総額１万元（約15万円）。客１人につき30元（約450円）の渡船料のウェイトがいちばん大きいそうだ。収入は、組長配下の34ファミリーに公平に分配する。１ファミリー当たり、１日300元（約4500円）ということになろうか。ちなみに、船の建造費は、１隻8000元（約12万円）。 もう一方の組の組長は、年配の女性だという。経営能力にたけた人物らしく、彼女が担当する週の収入は、常に男性組長の週のそれを上回るといい、周りから畏敬の念を込めて「走婚大王」（ツオフンターワン）と呼ばれているのだそうだ。 瀘沽湖をゆく猪槽船

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