先週夕方､突然見ず知らずの男性から「仕事の依頼をしたいが､今から会えないか？」と事務所へ電話がありました。ちょうどその日は､別の用件で出かけるところだったので断わると､「じゃ、明日は？」。明日の午前中なら時間があるというと､「また明日の朝かける」と言って切れ､翌日時間どおりに又電話が・・。

この仕事の少ない時期なので、逢って話くらいは聞かせてもらいましょう、と言うと､「それじゃ、難波のサウスタワーで」と言う事になり､待ち合わせ場所で待っていると少し遅れて現れたのは､６０歳くらいの自営業っぽいオッサンが一人。

隣の喫茶店へ座って話をしたのですが､この時点で既に少しおかしかったのは､
１．紹介者：安田信託銀行・新宿支店の郷田という人物から私の名前を聞いたと言うのだが､こちらには全く心当たりがない。
２．お互いに名刺交換をしようとしたら､「さっき、置き引きにあって財布を取られた。時間に遅れたのは　警察へ行って被害届を出していたからや」と云って､自分の名刺を出さない。



それでも、
「ときどき関西へ来て、出物のビルを買っている。昨日も、滋賀県の膳所でひとつ買収した」
「本社は横浜だ。今までに､札幌､福岡などでもビルを買って､メンバー制のカラオケを経営している。昼間は貸しスタジオにしているが、アマチュアバンドにすごい需要がある」
「今度､関西地区へ進出を考えている。その第一号に京都：四条大宮で閉鎖したカラオケのビルを買収した。このビルを改修して年末にはオープンしたいと思っている。その設計監理をお願いしたい。隣の空き地も買収済みでこの分は新築になるので､時期はズレるが改修工事がうまく行けば続いてお願いする」

「堺の鳳でも､既存のカラオケビルを買収済みである」
「このほか、大阪の弁天町、兵庫県では宝塚の中山寺、和歌山の県庁前、滋賀県の膳所駅前で次々にオープンする」
と言って、一つひとつの土地の地籍図等を取り出して説明するので、かなりな財産があってその運用のために投機しているのかと思い、職業を尋ねると、
「わたしは相良保男という音楽家です。現役でまだピアノも弾いているし、作詞作曲もしている。あなた、カラオケへ行ったら曲の最初に作詞家、作曲家の名前が出て来るから見て御覧なさい。私の名前がそこらじゅうに出ている」と。・・そんな作曲家いたかいな？



「終ってしまったが、ＴＶ大阪の『演歌の花道』の音楽の構成をやっていたのはこのわたしや」
「毎日ＴＶ、関西ＴＶ、読売ＴＶ・・全部で仕事をしている。ＮＨＫの『ふたりのビッグショー』にも関係している。羽田健太郎が出ていない時は、わたしがピアノを弾いている」

「引き受けていただけるなら、７月３日に現地ビルの前で待ち合わせしよう。中を見てもらって、その時にこのビルの作りでどこがマズイのか説明する。その足で福岡にある私の方のカラオケルームを見にご一緒願いたい。その日のうちには帰れないと思うので、福岡ドームの隣にあるホテル・シーホークに泊まってください。そちら二人までなら、こちらで飛行機のチケットも用意しましょう」と。

「それから、私のところは　ダイエーの筆頭株主なんですよ」
そこまで言われると、ちょっとマユツバの感じもして来たので、
「それじゃ、来週初めに３日に行く人間の名前と年齢を連絡します。連絡先を教えて欲しい」と尋ねてみると、
「名刺は、さっき盗られた財布に入れてあったので今持合わせがない。さいわい、運転免許証は別にしてあったので、これを見て、私が本人である事を確認して下さい」と言ってチラッと見せる（確かに、写真は目の前にいる男のものだった）。



「これが　本社で私の片腕になっている部下の名刺だ」と言いながら､手垢で汚れた名刺を出し　会社の住所と電話番号を控えさせる（自分の名刺は無いのに他人の名刺だけはあると言うのもおかしな話で、それも自分の上司の名刺ならなにか代理で行く時に預かったりもするが、部下の名刺など普通は持ち歩いたりしないのに、とは後で気がついた話）。

「この前田という男に来週初めに連絡してくれたら良い」と云い、四条大宮のビルの写真と測量図のコピーをこちらへ渡して「じゃあ、連絡の方よろしく」と言う別れ際になって､「しかし、ワシはこれから横浜までどうして帰ったものか。

昨日帰るつもりで切符を買ってあったのに、アンタと会うのが今日になってしまったので切符はキャンセルになって使えないし、会社の誰かに電話して金を持って迎えに来ささないとしょうがないな。銀行のカードも取られてしまったから　送金させる訳にも行かないし・・。これから４時間も時間潰しをせんとイカン。

先生の銀行の口座を借りて送金させるのに協力してもらう訳にいかんかな？」と最後になって又、おかしな雲行きになってきたので、「すんません。ワタシ、昼から事務所に来客がありますので・・。」と、男を振り切ってそこで別れたわけです。



なにか怪しげな話のような気はしたのですが、もし、ホントに仕事をするとなると、京都の友達にいろいろ頼まないといけない事も出てくるし、しばらく会っていなかった友達に電話を入れてみると、たまたま昼から事務所にいるよ、と言うので、それなら現地の方も見ておこう、と思い立って、その足で京都まで出かけて来ました。

高速での渋滞もなく、思ったより早く着けたので、それなら、友達の事務所へ行く前に現場を見ておこう、と　四条大宮まで行ってみると・・なんと、件のビルにはすっぽりとシートがかぶせられて奥の方から解体工事の真っ最中。念のために法務局で登記簿を調べてみると、京都市内に住む、全くの別人の所有になっていることも判明。



どうもクサイ感じがしたわい、と思いながらアナウンサーの友達に電話してみると、早速彼女が付合いのある音楽関係の先生に問い合わせてくれましたが、「そんな名前の音楽家など聞いた事がない」という返事。

念には念を入れてと別のルートから聞いてもらうと、大手の楽器店で作詞家、作曲家の名簿を持っている店があり、調べてもらいましたが、やはりそんな名前は載っていない、と言う返事が帰ってきました。

それじゃ、本社とか言うところがホンモノかどうかを調べてやろう、と聞いていた住所と会社の名前でＮＴＴの番号案内へ問い合わせたのですが、またまたそんな名前の会社の登録は無い、と言う返事で、一体どういうことなのか見当もつきません。

やはりマユツバ、詐欺か何かに引っかかりかけていたようです。
今のところ、特にこれといった実害も無いですが、我々のような、貧乏な設計事務所経営者などを狙って、何が目的なのかよく判りません。

不景気な世の中には訳の判らん輩がウロウロしているようです。
皆さんもお気をつけ下さい。

2001年６月22日記