今シーズンの初め頃、試合の途中からセットアッパーとして藤川が登場するようになった時には、２年前のあの試合のことがつい目に浮かんだ。
ちょっと目には２年前とさして変わり映えしていない・・・見るからにひ弱そうな体つき、自信なさげなマウンドでの態度。１４０キロに満たないストレート・・・と思いきや、ズバっと投げ込む速球は常時１５０ｋｍ超の剛速球に大変身。ＴＶの解説者ならずとも、
「一体どないしたら２０キロ近くスピードが速くなるんや？」
「へー？」
と驚いたり感心したりする暇もなく、バッタバッタと三振に切って取る素晴らしいピッチングに酔い痴れ、そのうちに勝ちゲームで７回を迎えるのが楽しみになっていった。

それから後の活躍ぶりは諸兄もご存知の通り。
このまま阪神が日本シリーズも制覇した暁には、兄貴：金本とＭＶＰ争いと言う勢いだ。

今シーズンも終わりに近づいた頃、トラファンの気持ちを見透かしたように、雑誌「Ｎｕｍｂｅｒ」からタイガース特集が出た。
勿論、今年のチームを代表する一人として藤川が取り上げられており、その記事の中で、１５０ｋｍへスピードアップした秘密が明かされている。

昨シーズンの夏、肩を痛めて２軍で調整中に山口コーチから指摘を受け、バックスイングに入るところで少し軸足（右足）が折れて体が沈み込む傾向があったのを、そのまま真っすぐに軸足に乗ったまま、スーッとバックスイングに移るようにフォームを修正した。その結果、腕を振る際の力のロスが無くなってボールのスピードが増したと言うが、もうひとつ、昨シーズンの終り頃、肩痛も癒え本格的なピッチング練習をしている中で、何か今までと違う（ボールへの）指のかかり方を感じたと言うのだ。

今までに経験したことの無い回転のついたボールを投げられるようになったと言うことだが、そのスピンの効いたストレートこそ、各チームの中心バッターでさえど真ん中のストライクをクルリと空振りしてしまう、今シーズン何度もファンを唸らせた快速球なのだ。

バッター上位の昨今、ピッチャーは強打者相手にあの手この手と気を使う・・・ストライクからボールに逃げていく変化球で空振りを取る・・・内角高目へのボール球の速球で空振りさせる、など・・・。しかし、ストライクゾーンのストレートで空振りを取ることのできるボールを投げられるピッチャーはそういない。

藤川の投球を見ていて感心するのは、普通のピッチャーならボールと判定される低め一杯のコースへ投げたストレートがストライクになる・・・当然、バッターもボールと思って見逃した球がボールにならないことだ。その分、ボールの回転でバッターの手元へ行ってもボールの軌道が落ちない・・・バッターがボールと思って目を切った後も、そのままの高さを保ってキャッチャーへ届く・・・見逃しのストライク、と言うことだろう。

入団当時から、回転の良いボールを投げていたと言う藤川。スタミナに問題があり、先発ではムリと見限って中継ぎ・抑えに転向させた、首脳陣の期待にやっと応えることができた。
切れの良い速球に加えて、ブレーキ鋭いフォークボールもある。あの速さのストレートに遅れまい、という気持ちがあるから、時にはワンバウンドするとんでもないボール球でも振ってしまい空振り三振の山を築く様を見るのは爽快だ。

勿論、やっと２、３年前に１軍に定着するようになるまでには、人には言えない苦労があったようで、それでなくても、細い体でムリを重ね、今までにも何度か肩やヒジの故障に悩まされており、「このままクビになって野球が出来なくなったら、早めに結婚した妻子をどうやって養おうか」と悩んだこともあると言う。

今年、あまりにも当板機会が多すぎて今後が心配だが、日本シリーズの終わったあとはゆっくりと体・肩・ヒジのケアをして来シーズン以降に備えて欲しいものだ。

プロの世界を７年も経験し、今年あれだけの活躍をしながら、藤川の年棒はわずか２，２００万円だとか。来年以降どのくらい給料をもらうのか、他人事ながら気になるところだ。
前年の８００万から一挙に８０００万円へ、一桁違いのアップをしたイチローの例もある。
今年の活躍に報いるためにも、２億とは云わないが、欲を言えば１億５０００万・・・最低でも１億円は貰えるようにしてやって欲しいと思っているのだが、如何だろうか。

―終わり―