久しぶりに野球の話題です。
事務所の方で久しぶりに住宅の設計を受注して、七天に投稿している暇はないのだが、今日、「神様、仏様」と称された　稲尾投手が亡くなったと聞いて、以前にNHKのBSで見たドキュメンタリーを思い出した。

「神様、仏様、稲尾様」と呼ばれるようになったのは、確か１９５８年に巨人が相手の日本シリーズで、３連敗から稲尾の投打にわたる活躍で４連勝し、結局、３年連続で日本シリーズで巨人を破った、その時の活躍に由来する。
　当時は、長嶋人気に惹かれて、どちらかというと巨人を応援していたので、敵のエース：稲尾は憎たらしい存在だったが・・。
大事なところで、自ら決勝のホームランを打ったり、巨人の新人：長嶋を封じ込めたり、と大活躍のシリーズだったと記憶している。

その時の思い出をBSの番組で語っていた、その内容が強烈に印象に残っている。
・・・打者長嶋と対戦したときに、どうしてもその心理が読めなかったが、苦労して何とか抑えたという話題だった。

一般に、投手と打者が対戦するときには、打者は投手の投げようとしている球種や、そのコースを予測し、同時に、投手は（過去に対戦したときの記憶などを元に）どのような種類のボールをどのコースに投げて討ち取ろうかと考える。

この年、長嶋はルーキーでいきなり３割を打ち、打点王とホームン王を取り新人王。
日本シリーズが初めての対戦だったはず。
稲尾も、長嶋の目を見、バッターボックスに入ったときの動きなどを観察して、何とか、その意図を探ろうとしたそうだが、どうしても読めなかったという。
しかし、何度か対戦するうちに、「こいつは何にも考えていない」と言うことにハタと気付いたと言う。
・・つまり、一般の打者のように、球種などを絞ろうとはしていない、と。

猶も観察を続けていると、その代わりに、「内角のボールを待っているか、外角を待っているか」でちょっとしたクセのあることに気付いたというのだ。
・・内角を待っているときには、投手がモーションに入ったときに左の肩がホンの少しだけ開くが、外角の時は、逆にグッとホームベースの方に出てくるという。

これだけのちょっとした動きに気付いた方も凄いと思ったが、これに稲尾がどう対処したかを次に聞いて、思わず「ウーム」と唸ってしまった。

当時、稲尾の決め球：一番得意なボールはスライダーだと一般に思われていたらしいが、稲尾本人によると、「私が一番自信を持っていたのはシュートボールだったんですよ」とのこと。
そのシュートとスライダーを、バッターボックスにいる長嶋の動作を観察しながら投げ分けたというのだが・・・。

稲尾が投球動作にはいると、バッター長嶋もそれに備えてバックスィングを起こす・・その時の左肩の動きを見て、「内角を狙っているときにはスライダーを、外角を待っていると判ったときには、逆にシュートを投げた」と言うが、仮に、「待っているのは外角だ。シュートで詰まらせよう」と思っても、既にスライダーを投げるつもりでボールを握り、投球動作を起こしてしまった後でシュートの握りに変えることなど、いったい可能なのか？

しかし、稲尾によると、「投球動作に入り、頭の上で振りかぶったグラブの中で、シュートとスライダーの握りを変えることが出来た」と言う。
ボールに添えた親指はそのままに、人差し指と中指を右か左に動かすだけで、瞬時に、それまでのスライダーの握りからシュートの握りに、シュートの握りからスライダーに持ち替えて投げ分けていたと言う・・・これぞ、まさにプロのテクニック！！

実際、追い詰められた巨人に最後のチャンスが巡ってきた時、バッターに長嶋を迎えた稲尾は、長嶋の左肩の動きから外角狙いを察知してスライダーの予定をシュートに変更。
内角を鋭くえぐった快速球に、長嶋は、敢えなくサードへのファールフライに打ち取られている。

只、ただ、脱帽するしかない、プロ同士による一騎打ちにワクワクした話題だった。

今日、惜しまれながら、本当のプロフェッショナルがまた一人、あの世へと旅だった。
ご冥福を祈りたい。