御無沙汰しておりました。好兵衛です。 暮れも押し詰まり寒くなって参りましたが、皆様お変わりございませんか？

私事ですが、先日、奈良西の京の薬師寺を拝観する機会があり、出かけて参りました。復旧なった西塔から金堂、新築された三蔵院伽藍、それに工事中の大講堂まで見る事ができ、先人の知恵に改めて感服しつつ帰路についたと言う訳でございます。

最近奈良方面へ出かける時は、第２阪奈道路を使えば車でずいぶん早く行く事が出来るのですが、この日は後の予定もあり、久しぶりに電車で出かけたのでございます。

近鉄奈良線の急行なら、難波から西大寺まで約３０分あまり。行きはちょうどお昼時、電車も空いている時間帯。楽に座って行く事が出来ました。

拝観が終わっての帰り道は、ＯＡＰのビルの中に用事がありましたので、西大寺からまた急行に乗り、鶴橋へ出ました。時刻は夕方の５時前。ちょうど、電車が混み始める時間帯でございました。

私も座る席が無く、と言って気持ちではまだまだ若いつもりで居りますから、途中停まった駅で席が空いても 無理に争って座りに行くような みっともない真似は致しません。車内の半分ほどを占める学生諸君が賑やかにお喋りを楽しんでいる様子を眺めながら、吊り輪につかまりながら、電車の揺れに身を任せておりました。


電車が布施の駅に停まりますと、降りて行った乗客と入れ替わりに何人かがぞろぞろと乗ってこられました。その中の、かなり年配の方は足腰も弱そうで、見るからに立ったままでは辛そうな様子。きょろきょろと空いた席を探しますが、満員に近い車内には 一人分の空席もございません。

学園前かそのあたりから乗って来て、それまでに座っていた学生の一団を横目に見ながら、「あの子ら、お年寄りが席を探してはるのに、一人くらい席を譲ろうかと言う者はおらんのかいな。今時の学生というのはあんなもんかいな」と、いささか暗い気持ちになり始めた私。

と言って、席に座っている訳でないこの私が席を譲る訳にも行かず、「電車になど 乗るんじゃなかった」とも思いかけたその時、一人で真ん中あたりに座っていた高校生らしい女の子がサッと立って、その年配の女性に近づくと、どうか座って下さい、と席を譲ったではありませんか。

「イヤ、最近の学生もなかなかのもの。見捨てたもんでもないぞ」と、一気に気持ちが晴れる思いが致しました。

鶴橋からは、ＯＡＰまでＪＲの環状線ですが、この電車に乗るのも久しぶり。

附属へ通っていた頃は、南海の「新今宮」まで毎日往復乗っていた懐かしい路線です。「寺田町」の駅で電車待ちをしながらホームのベンチに座り、たまたま 大阪駅方面のホームにお嬢様の姿を見かけた時など、友達と談笑しているその姿に見とれたものでございました。「ああ、俺も向こう側の電車に乗りたい」と、幾度思った事でしょうか。


「二人を別々の方向へと運ぶ電車が、何時までも来ないように」と願い、その夢も叶わず、到着した電車にお嬢様の姿が隠れ発車する瞬間には、「バイバイ、また明日な」と胸の中で呟いたものでございました。

このように 懐かしい思い出の詰まった環状線。

鶴橋では、降りる乗客も多かったので、それと入れ違いに空いた席を見つけ、今度は何とか座る事が出来ましたが、車内はやはり、かなり混んでおりました。

すると、次の玉造で、また足元の覚束無い老人がお二人 乗って来たのでございます。早速 席を替わりましょう、と声を掛けようと思いましたが、あいにく、私の席からずいぶん離れたあたりで席を探しておられた関係上、大きな声を出す訳にも行かず、「こちらへ来てくれたら替わってあげるのにな」とやきもきし始めましたら、またも 若い女の子が、それも二人が席を立ち、件のお年寄りに席を譲ったのでございました。

最近、電車に乗りますと、決まったように 携帯電話の呼び出し音（着メロと言うそうですね）に驚き、周りの迷惑も考えず声高に喋っている若い子に眉をひそめ、また、お年寄りが乗っておられるのに、我が物顔で足を大きく広げたまま座っている輩など見るたびに、「もう二度と電車はコリゴリ」と思う事が多かったのでございますが、この日だけは、何か心の奥にホノボノとしたものが湧いてくるような温かさを、桜ノ宮の駅まで持つ事が出来ました。

近頃抱いていた、若い子らに対する偏見を正されたような経験を致しましたが、その後今度は南海電車に乗りますと、友達同志のお喋りに夢中で、お年寄りが乗って来ても気が付かないのか、その気が無いのか、席を立とうともせぬ相も変わらぬ態度の悪い学生を見かけまして、あの時の事は、近鉄と環状線だけなのかしら、それとも、あの日だけ、たまたまあのように気の優しい学生が乗っていただけなのか、と思わず考えてしまいながら、どうしても電車に乗らないといけない時には、せめて少しの間でも足腰を鍛えておこうかと、無理に立ったままのやせ我慢を通し続けている今日この頃でございます。

みなさま、どうか良いお年をお迎えください。
今年は　これにて失礼致します。

初めまして、私、好き兵衛と申します。 兄の徳兵衛がいつも七期天国の皆様に大変お世話になっている、と聞いております。

訳あって、小さい頃から別々の家で育てられた二人でございます。兄の存在は知っておりましたが、こんなにも皆様方から愛され、また、話題の主になっていようとは、想像も出来ぬ事でございました。

最近、徳兵衛の別名を割り出さんものと、皆様方躍起になっておられるようでございますね。兄からは、「他言はならぬ」と 固く口止めされておりますので、私の口から本当の所をお話する訳には参りません。

ただ、いつも徳兵衛のエッセイに登場する「お初」の存在。あのあたりが かなり 別名を割り出すヒントになるように、私には思えるのでございますが・・。

一つだけ申し上げておきましょう。先日来、「徳博」と言う名前の人物が疑われていたようですが、全くの見当外れでございます。他にも もうお一人「徳」と言う字を持つ方もいらっしゃるようですが、兄は そんな簡単に分かってしまうような謎かけをする人間ではございません。

思慮深く、風流にも造詣の深い兄、徳兵衛の仕掛ける謎かけは、もっと奥深く、一ひねりも二ひねりもされている、と考えられた方がようござんすよ。

ところで 好き兵衛、お前は一体誰や？と申されるんですか、いや、これは失礼致しました。私にも勿論 別名はございますが、こちらも 「好」の字を使った人物でない事は、前もって申し上げておきます。

名前の通り、私も兄に負けず、その道は大好きでございます。今後、また、何かのご縁でこの「七天」に私の「艶事遍歴」をご披露する日があるかもしれません。どうかその日をお楽しみに。私の別名も推察なさって下さいませ。

徳兵衛ともども、好き兵衛もどうかよろしくお願い申し上げます。