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穴吹史士が書いた記事

AICキャスターclick
2000/09/18

飼い主に似る
「犬は飼い主に似る」という。しかし、うちの犬は、飼い主に似ていない。やせている。「やればやるだけ食べ、ぶくぶく太る」と、ペット・ショップの人にさんざん脅かされた家人が、もっぱらペット・フードのみ与え続けた結果、ちょうど、毛が生え代わりつつあることもあって、終戦直後の野良犬のように、がりがりなのだ。

ペット・フード以外の味をほとんど知らないので、食べ物にいやしくない。家族が食事をしているときなども、そばにおとなしく座って、「なに食べてるの？」といった感じで、きょとんとしている。少し不憫な気がする。「柔肌の熱き血潮に……」と、与謝野晶子の歌なども思い出される。

ひるがえって、飼い主である私は、すごくいやしい。おいしそうなものが目の前にでてくると、我慢するということが、決してできない性分である。先般、北京から山西省の山奥、陝西省の西安を急いで回ってきた際も、いやしさ丸出しだった。

旅行した地方は、内モンゴルに近く、また西域への入り口でもあったりしたので、「内蒙風味」とか「精真（イスラム）料理」とか看板をあげた店が多く、いやしさはいきおい、羊に向かった。

羊肉のしゃぶしゃぶ、羊肉とネギの炒め、骨付き羊肉の煮込み、羊の内臓の煮込み……。薬味は、酢漬けのニンニクまるまる１個、唐辛子と香菜どっさり。「重慶火鍋」という唐辛子だらけのしゃぶしゃぶも試す。体はどんどん、羊臭く、またニンニク臭くなっていった。

私がもっともいやしく心ひかれたのは「羊肉泡★」（やんろーぱおもー、★は食へんに莫）。西安の名物だとかで、「天下第一碗・老孫家飯荘」でも食べたが、その前に、太原の「清和元」でも食べた。種なしパンを細かくちぎった上に、羊肉とネギとはるさめの熱いスープをかけて食べる。これもイスラム料理である。

羊の合間に、屋台の肉まんやワンタン、昆布とはるさめの辛いスープ、山奥の名も知れぬキノコの数々、ウサギ、清の西太后が愛した餃子に北京ダックと、手あたり次第に食べ、当然の結果として、お腹をこわした。

約１週間の滞在中に２度、胃と腸の不調があり、数分おきにトイレに通って、夜眠れなかった。しかし、朝、昼と絶食すると、夜には不思議に回復して、また食べにでかけるといった繰り返し。不調は、帰国後も続いて、全快したのは、つい２、３日前である。

こんな私に似たのが、私のパソコンである。いやしい奴なのである。ちょっと便利そうなソフトがあると、それがフリーウェアか、シェアウェアでも安価なものなら、とにかく食べてみる生活を長く続けてきた。そして、今回、５万円もするCATV用の無線LANカードを導入したとたん、目を回してしまった。何度やっても、ウインドウズの起動が途中で止まってしまうのだ。

明らかに食い過ぎだった。LANカードは、会社のものが２種装填されているうえ、ISDNの無線TA、携帯電話のモデムなどもごちゃごちゃ。下剤をかけ、口からも吐かせて、すっきりさせてみたが、回復せず。とうとうウインドウズを総入れ替えする羽目に。

思えば、一昨年の暮れ、大腸の深刻な病気で、入院、手術し、その保険の給付金でこのパソコンを買ったのだった。それで、いやしいところが似ちゃったんかなあ。うんざりしながらパソコンの復旧作業を続ける私のわきで、「なにしてるの？」という感じで、うちのやせた犬はきょとんとしているのだった。