車の大衆化と一緒に 会社も自分も成長した ――いま乗っている車は？ 住野　ポルシェのカイエン。４輪駆動のＳＵＶ（スポーツ多目的車）です。女房と子ども３人、そのガールフレンドも乗せたいですな。450馬力の８気筒ツインターボ。ずっと欲しかった車で、去年暮れにようやく手に入れました。1300万円。中古ですけど。家と楽器以外には、1000万円以上かけたことなかったんですがねえ。 ――最初に乗った車は？ 住野　スズキのキャリイという軽トラック。20歳で免許を取った後、中古を自分の小遣い５万円で買いました。大阪から京都まで通学しましたが、全然走らん車で。まあ走らん車を知ってるというのもうちの商売には大切なことです。それ以降、20台くらい乗り換えました。社用車以外は、たいてい中古。 純正の壁破る ――日本のモータリゼーションと会社の歴史を、乗る車の変遷が物語っていますね。 住野　そうかもしれません。私が初めて自分の車を持った70年前後、サラリーマンが自家用車を買い始めた。でも、パンクしたらどこへいけばいいのか、オイル交換で１万円取られたといった問題も起きてきた。タイヤはタイヤ屋で、オイルはガソリンスタンドで、別々に売っているし、部品屋なんかは裏通りにあって、玄人以外は近づけない雰囲気でしたから。 ――売り手本位の商売。お客の便利を考えていなかった？ 住野　そこへ行けば、自動車用品はなんでもそろっていて、素人でも全部間に合う店があったらええなと。父親の敏郎がアメリカで「グランド・オート」という大型店を見てきて、オートバックスを開業するんです。それ以前は、百貨店に売り場を持ち、ガソリンスタンドにも広く商品を卸していましたが、そちらは手じまい。周囲の反対を押し切って。でも、結果的に急増しつつあったマイカー族のニーズに合致したんです。 ――既存の業界の抵抗は？ 住野　純正用品の壁が高かった。オイルもバッテリーも自動車メーカーが特定の製品を指定する。値段が高く、店のマージンも薄い。メーカーにメリットはあっても、お客にも販売店にも利点が少ない。純正以外は不良品が多いという時代が確かにあったんですが、純正以外でも品質がよくて安いのが現れていました。それを「ユーザーの純正」つまりメーカーが決めるのでなく、お客自身が決めた純正という風に名付けて売り、メーカーからは嫌われました。 ――事業として、追随者がもっとあってよかったのでは？ 住野　ダイエーや西友など、小売りのノウハウを持つ大資本が参入したことがありますが、うまくいかなかった。仲卸のような中間流通業者が整備されている食品や洋品と違って、車という特殊な分野では、ワックス１個、布きれ２枚といった単位で供給しなければならない。そんな商品知識と物流能力がなかったんだと思います。 ――投資家向けの広報資料で最近は繰り返しマーケットの縮小を懸念していますが。 住野　車のIT化、とりわけ一つのコンピューターでエンジンからオーディオやカーナビも制御する方式の採用で、ドライバーが自分の好みで改造する余地が少なくなっています。 車文化を発信 ――再びメーカー主導のマーケットに戻りつつある？ 住野　車をただの移動手段と見なすならそれでいいのでしょうが、ライフスタイルと考えると、ユーザーの意向がもっと反映されていい。家だって快適な居住のために改装するでしょ。だいたい日本の自動車関係の法規は改造に厳格すぎる。健全な運転者を暴走族と同一視するようなところがある。私なんかホイールやサスペンションを変えるのが楽しくてしかたないんですが。自動車は文化なんだと考え直してほしい。 ――対策はなにか？ 住野　ここ10年、従来より広範囲な顧客を想定した大型店・スーパーオートバックスを展開しています。商品も多様で、整備や中古車の売買も手がけ、自動車文化の発信地と位置づけているつもりです。モデル店の東京・東雲店へは、海外の同業者がよく偵察に来ています。 ――会社が大きくなって困ることは？ 住野　以前のオフィスでも社長室の扉はいつも開けてあったんですが、やっぱり誰も入ってこない。それで、ワンフロアで仕切りがない今の場所に本社を移転しました。80×40メートルの体育館みたいなだだっ広い真ん中に私のデスクがあって、何しているかどこからでも見える。私はチェロを弾きますが、大人数のオーケストラでは、ひとりくらい弾くふりしててもわからん。全員弾くふりするようになるとえらいこと。会社も一緒というのを、チェロから学びました。 ――チェロには1000万円以上かけた？ 住野　1770年代イタリアのフランチェスコ・ゴフリラー製を持っています。毎日４〜５時間弾いてやらないと鳴らないという名器です。値段？　いえんくらい高かったです。 転機 ゴジラのような父親についにタテ突く 窓口の女性はかわいい顔をしているのに、愛想がなかった。ええ天気ですなあ、と声をかけると、ろくに返事もせず、伝票を切って釣り銭を渡し、つんと横を向いてしまった。 なんや、こいつ。しかし、気になってしかたがなかった。相手は、東海銀行の大阪の支店で外国為替係をしていた。アメリカから直接レコードを買うのが趣味だったので、送金のため、しばしば窓口で顔を合わせた。 ある日、先方から電話があった。「す、すみません。お釣りを多く渡してしまいました。返しにきてください」。なんやて？　そっちから取りにくるのが筋やろ。「その通りですが、いま席を外せません。おわびにお食事ごちそうしますから」 わずか数百円の計算間違いから、願ってもない展開。お好み焼き屋で初デート、翌週にはふたりで鈴鹿へ自動車レースを見に出かけていた。 だが、ある日、連れだって歩いているのを、同じ銀行で父親の会社を担当する行員に見つかり、注進された。「す、す、すんまへん。うちの窓口の子が、ぼんと付き合うてます」。 結婚相手をほかに考えていたらしい父親は、「その窓から飛び降りてしまえ」と激怒。家か女かと迫られ、「家をとるわけにいかんとハラをくくり、市営住宅を見つけて、まず住む算段。仕事も探さんならんなあ、まあ相手の実家から資金援助してもろて……、と初めから他人のふんどし期待ですわ」。父親とは１年間口をきかなかった。 その女性が妻の好子さん（57）である。74年に結婚。オートバックス開業の年だった。 こ、こんなのろけ話のどこが転機やねん？ 「いや、そのとき初めて父親離れできたんですわ」。それ以前は、「おやじの前へ出ると、なんかゴジラ相手にしてるみたいで」と話す。父親の「怒りの経営」に対抗して、息子の中に「笑いの経営」が宿ったのも、たぶんこの時であった。 ★自主・自立・自発　「ルールが多い集団は程度が悪い。全員が自分で判断が理想」と確信。 ★眉毛　父親の敏郎さん譲り。遠くからでも見つけやすく、似顔漫画も描きやすい。 ★オーディオ　車でいちばん改造するのが音響機器。100万円くらいかける。 ★葉巻　25歳で禁煙。４年前、コスタリカで老人がうまそうに吹かしているのを見て再開。 ｂから 「読者が笑い出す記事を書いてみたい」と恐る恐る申し出たのは20年前。相手は疋田桂一郎さんだった。私の知る限り最も厳格な朝日新聞記者で、いつも額に縦じわを寄せていた。そのしわが一瞬横に伸びて、「それはいいですね」と意外な返事。で、宗教改革のルターをお笑いタッチで書く。 以来、新聞にもっと笑いがあっていいというスタンスで記者を続けてきた。だが、経営に関して同じ思想を持った人に出会ったのは初めてである。 以下の記事から続く ●経営にお笑いを ●経歴

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あなぶき・ふみお / ７期天国 / 七福会 mail to seventh heaven office