意気揚々と梱包を解く脇から、「見かけより重いんじゃない」「133はつらい」「２メガは欲しいよね」「値段が……」「デザインが……」と、みんなでケチをつける。気分よく新年を迎えるのは、自分一人で十分なのだ。見るところ、Ｍ社のＬ機とＳ社のＶ機のどちらが、気分よく新年を迎えさせてくれるかで、意見が分かれている。

こっちが薄い、いやこっちが速いと議論しているところに、よその部の男が顔を出した。１年半前、75MHz、16MB、0.56GB、３kgのノートを会社から配備され、それがパソコンというものだと、ずっと信じていたので、みんなが議論している機械が、あまりにも自分のと違うのを見て、非常に根本的な質問を投げかけた。

「で、これらのパソコンは、いつ陳腐化するの?」

陳腐化とは、次世代の商品が現れて、世間から相手にされなくなることである。新聞は半日から１日で陳腐化し、週刊誌も３日から１週間で陳腐化する。世間から相手にされない代わり、税務署からは優遇される。

根本的質問に即答できる者は、いなかった。できれば聞かずにすませたかった質問のようだ。

陳腐化までの時間を知る手がかりがひとつあった。

Ｍ社のＬ機を購入した人物は、注文後、商品到着を今日か明日かと、待ちわびていたが、１週間たっても届かず、２週間たっても届かず……。１ヵ月を過ぎて、「もう次のが出ちゃうよぅ」と、解約を申し入れた。すると、翌日到着。しかも、お待たせしたお詫びとしとして、３万2000円のディスカウント。

「１日につき1000円の儲け」と、本人は喜んでいる。しかし、１日1000円の割で陳腐化したとも考えられる。総額30万円の商品だから、300日で全陳腐化する計算になる。つまり、次の次の新年は、気分よく迎えられそうにない。

以下、根本的質問者との対話。

「１年足らず? で、陳腐化したパソコンはどうなるの」
「具合よく、ちょうどそのころ壊れるのです」
「そんなにタイミングよく?」
「パソコンは、自分の身の引き際を、よーっく知ってるんです」
「どうして今が引き際だと、パソコンにわかるの?」
「それはね、えーっ、まだこんなの使ってるの、とか、こんな遅いので、よく仕事ができるね、とか、持ち歩いたら肩が凝るでしょ、とか、まわりの者が、パソコンに聞こえるように囃したてるからです」
「…………」