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穴吹史士が書いた記事

AICキャスターclick
99/08/09

カラオケひがしにし
会社の近所に、１曲歌うとカロリー消費量が出るカラオケ屋ができたので、行かないかと誘われた。「GLAYの歌はカロリー消費量が多い」という新聞記事を見ていたので、最近「SOUL LOVE」を風呂場で練習している身としては、出かけないわけにはゆかなかった。

カロリーをただ消費したいのなら、カラオケ屋のビルのまわりを２、３周走ればすむことだが、このシステムは、「カロリー消費量と歌のうまい下手は関係がある。ちゃんと腹式呼吸して上手に歌うと、カロリー消費量が高く出る」と思われているところが気になった。10キロカロリー以上を出すのは至難なのだそうだ。

手始めに尾崎豊「I LOVE YOU」を完璧に歌う。６キロカロリー。あいかたが、谷村新司「遠くで汽笛を聞きながら」を、まあまあ上手に歌う。7.1キロカロリー。ど、どーなってるのこれ？　少し早すぎるかとも思ったが、切り札のGLAY「SOUL LOVE」をほぼ完璧に歌う。あいかたと同じ7.1キロカロリー。ちょ、ちょーっとおぉぉ。

同席の一人が、安室奈美恵の「CAN YOU CELEBRATE ?」で、16キロカロリー出した人がいるという記事を雑誌で読んだといって、試しにそれを歌う。さして上手とは思えなかったが、8.9キロカロリー。な、なんでーっ。

意地になって、「河内おとこ節」「とんぼ」「別れていいのよ──愛の幕切れ」「悲しい色やね」「六本木ララバイ」と、カロリーを放出しそうな曲を、次々にやってみたが、６キロと７キロ台をいったりきたり。なぜかカロリーが出ないケースも。

やっぱり長い歌のほうが、いいらしい。「CAN YOU CELEBRATE ?」は相当長い。カロリーは時間の関数。あたりまえといえばあたりまえだけれど。それでみんなは争って「メドレーもの」を歌いだした。結局この日いちばんのカロリーは、あいかたの「谷村新司メドレー」11.2キロ。10キロカロリーを超えたのは、この１回だけだった。

ふと気づくと、飲食店のビルがカラオケ屋に衣替えしているケースが近ごろ多い。銀座の並木通りといった高級店が並ぶ街区にも、出店が目立つ。一方で、過当競争から、「日中は500円のドリンク代だけで、カラオケ代、室料とも無料」というダンピングが横行している。ユーザーとしては、けっこうなことだが、業界としてやってゆけるのだろうかと、他人事ながら、心配している。

大阪・天王寺公園で、早朝から陽気に歌ったり踊ったりしていたおっちゃんやおばちゃんはどうなっているんだろうと思い、過日、出張のついでにのぞいてみた。10年ばかり昔、たまたま通りかかると、大音量のラジカセでカラオケテープを鳴らしながら、赤い、袖の長いべべを着たおっちゃんを中心に、近辺のホームレスとおぼしき人たちが、それはそれは楽しそうに騒いでいるのに出合った。

その後、公園の改修が行われ、彼らが閉め出される形になったというニュースを聞いて、少し気になっていたのだ。結論をいうと、健在だった。ＪＲ天王寺駅から茶臼山に抜ける上町台地の歴史的に由緒正しい緑陰の道をゆくと、演歌の歌声が聞こえてきて、「天王寺名物・青空カラオケ」と書いた段ボールの看板が。

れっきとした路上に、会議用の長机が４台ばかり。カラオケのデッキとモニター──戸外なので日光が反射するらしく、段ボールの日除けをかけてある──とスピーカー──戸外なので雨に降られるらしく、ビニールで包んである──が２組ほど。ビールやジュースを入れた冷蔵ケース。「あて」を盛った小皿が数個、長机の上に。従業員か通りがかりの人か、ちょっと分からなかったが、おっちゃん２、３人とおばちゃん２、３人が、くつろいだ格好で店番していた。

まったく同じ体裁のカラオケ屋が、200メートルくらいの間に３軒。しかも全店繁盛、絶えず誰かが歌っている。客はただの通行人だったり、女物の着物を着ているおっちゃんだったり、近くの路上で生活していると思われる人だったり。従業員が暇をつぶしていたのかもしれない。客が連れてきたのか、店で飼っているのか、犬がたえずうろうろしている店もあった。

感心したのは、近所同士に店を構えながら、お互いの歌声がやかましく聞こえない程度に距離を保っている点だった。道のカーブなども巧みに利用しているみたいだった。かつてホームレスの人たちのささやかな楽しみだった路上カラオケが、今は立派な商売として成り立っている。並木通りとはまた違った形ではあるが。商都というべきか。

近づいて、料金を見ると、「１曲200円」。……た、高いんちゃう？