スプリングキャンプも終わりに近づき、阪神・野村監督の効果がボチポチ見えてきた気がするが、連日ＴＶ・新聞をにぎわせている、新庄のピッチャーとの二股は、アイデアこそ何年か前のオールスター戦でイチローが一度やった事の二番煎じといえなくもないものの、今度は、公式戦での登板を目指してかなり真剣に練習しているようだから、これがもし本当に実現したら面白い事になるやろうな、とかなり興味を持って見守っている。

とは言って見たものの、実のところ、多分実現する事はないだろう、と言うのが正直な感想である。

だいたい、今まで外野を専門にやっていたものが、（いくら強肩でまた コントロールが良い、とは言っても）並み居る専門のピッチャーを押しのけて１軍のマウンドへ上がる、なんてことはあってはならないし、他のピッチャーにしても、自分達の面子にかけてもこんなことは許してはならない、と思う。

プロ野球ニュースなどで、新庄がピッチング練習するところを何度も見たが、あれでは、お世辞にも本物のピッチャーには見えない。確かに球のスピードはかなり速い（紅白戦で投げた時はMAX:147Km出たとか）が、フォームは、腰の開きが早すぎて威圧感がまるでないし、腕の振り方も一球ごとにバラバラだし、おまけにボールの握りが丸見えで、プロのバッターにかかれば、球種がマル解りだと言う。

２試合投げた紅白戦でも、出る度にガツンと大きい当たりを食らっているのは、この辺りが原因だと思う。プロのバッターを舐めたらいかんぜよ、と言ったところか。

この辺のところは本人も良く分かっているらしく、「プロの洗礼を受けました」と殊勝にしゃべっていたのには救われた。今年の新庄は、とにかく明るいのが目に付く。ブルペンへ入って初めてピッチングをした後のインタビューでも、いかにも楽しそうに、「面白いです」と言っていたが、これが何よりだと思う。

紅白戦で打たれた後でも、「打たれたけど、投げれて楽しかったです」と、明るく笑いながら答えているが、去年とはえらい違いだ。野村監督も、この辺りの効果を狙っているんじゃないか、と私は踏んでいるのだが、どうであろうか。

気分よく野球をやっている効果は、ちゃんとバッティングに出ていて、試合の度に２本３本、とまとめてヒットを打っている。「まだ紅白戦じゃないか」と言う声もあるが、しかし、紅白戦で打てないものはオープン戦でも打てないし、公式戦ではもちろん打てない。

去年２割２分しか打てなかった選手が、力まず右方向へヒットを続けている、と言う事実の積み重ねが大切だ。この新庄にしても、入団３、４年目の頃はかなりバッティングを期待された事もあった。シーズンに20本あまりホームランを打ち、２割８分近い打率を残して、将来のクリーンアップともてはやされたのだが、この辺りからおかしくなってしまった。特に、ここ１、２年など、素人の我々にも、とても打てそうには見えなかった。

ＴＶで見ていても、「いつも必ずバットの真芯でボールを捕らえないといけない」という意識が強すぎ、また、「コーチに言われた通りのフォームで最高のスィングをしないといけない」と言う意識が強すぎるのか、バッターボックスへ入ってもクネクネと体をくねらせ、腰の向きがどう、手の位置がどう、バットの角度がどう、と、形ばかりにとらわれている内に、かんじんの「ボールを打ち返す」と言う事をどこかへ忘れていたのではないか。

そのくせ、求めていたのは、「はるかフェンスを越えてホームラン」というイメージだから、結果は、クルリと回ってハイ三振、と言うのが多かった。

今年、今ままでのところを見ていると、ピッチング練習のおかげで力みが取れたのか、どこか違う筋肉の使い方を憶えたのか、それとも精神的に何か得るところがあったのか、とにかく 問題だったバッティングの方に良い影響が出ているのが何よりだ。

もともと、走る、投げる、守る、に関しては、監督も言うように、人並み以上に優れた才能を持っているのだから、バッティング以外にも、守備にも磨きをかけ、ランナーで塁に出たら、どんどん盗塁を狙うとかして野村タイガースの目指す機動力野球の核弾頭になってくれれば、チームの成績も格段に上昇しようと言うものだ。

どうも野村監督の本当の狙いも、この辺りにあるような気がする。と言うところで、表題とは異なるが、やはり本番では、６番センター新庄、で頑張ってほしい。間違っても、外野手にマウンドを任せなければならない程投手陣がダメなら、今年も阪神の好成績は期待薄だろう。

そりゃあやっぱり、肝心な場面での抑えは、リベラでしょうよ。

1999年２月28日記