第４週
見よこの港に憩う船
漂泊の思い乗せたりな
●Dec.12,1998 Sat.
 今日午前11時、退院。まる４週間に１日足らず、27日間の滞在。告知から数えて32日のスピード決着。
12月分の診療費は、総額20万1158円。基本診療費、３万3864円、差額ベッド料、15万4000円など。
11月分と合計すると、支払い総額は、68万6535円。うち差額ベッド料、48万4000円。
来訪、メール、手紙と、さまざまな形で激励してくれた友人のみなさんに、また、医師、看護婦、配膳、掃除のおばさんなど、病院スタッフに感謝しつつ。
●Dec.11,1998 Fri.
手術の１週間前くらいから、降圧剤（テノーミン）の服用を中止しているが、血圧は130-80程度で安定。
Ymd主治医によると、「入院し、安静にしていると下がるんです。仕事を始めると、３カ月から半年で、上がってくる。それから服用を再開すればいいでしょう。上がらなければ、それでよいし」とのこと。
 Mtm夫妻がお見舞いに来たいというのを、外出がちなのでと断る。不在でもいいから行くという。北里特製・屠蘇散がほしいし、「やきとり日記」にも出たい、と。屠蘇散２袋、こっそり確保しときますから、ということで、ようやく来訪を諦めてもらう。
 入院、手術が決まってから、念のため、小口の飲み屋の借金は、払いをすませておいた。
 今日、ボーナスが出たらしいので、夕方、銀座へ出て、Ysr、Kw、Azmを回り、やや大口のつけを払う。「ボーナス当日支払い」を続けて20数年。飲み屋の信用を辛くもつなぎ止めている。
さすがに、どの店も酒は勧めず。
●Dec.10,1998 Thu.
今朝より通常食。納豆が出た。そろそろ冷蔵庫（貸しロッカー式）の中も整理しなくちゃと、取ってあったヨーグルトを食べる。食べたあと、品質保証期限を見ると、12月２日！
  
11月分（16日〜30日）の診療費を請求される。合計48万5377円。
主な費目は、健康保険の自己負担分（20％）として、
基本診療料（内科＋外科）が、４万9098円。
Ｘ線を含む検査料（内科＋外科）が、３万4778円。
手術料が、７万9874円。
そして、非保険の差額ベッド料が、33万円。支払いのほとんどが、これというわけ。
午後、代官山へ外出。不在中にK1氏、Ybさん来訪。１時間半待っていたらしい。会えずじまい。
▼▲Dec.9,1998 Wed.
 昨夜は渋谷へ外出。円山町のはるばる屋東印度館で、バリ島の人魚（4900円）を買う。天井からつり下げる形式。手鏡を見ながら、髪を梳いている。
昨年の夏ごろだったか、この店で見かけて以来、気になっていた。売れ残っていれば、と思って行ってみたら、まだあった。同種の別物かもしれないが。ヨガ・タントラのネパール・カレンダー（500円）も、ついでに買う。
 東急ハンズの先、無国籍横町に回り、はるばる屋アムリタを覗く。昨年ここで木製ベルを買う。形は違うが、同じような木のベル（4500円）があり、迷わず購入。
今朝、１泊ドックの人と眼科の人が相次いで退院、同室４人となる。
「江戸から東京へ１」（麹町区〜下谷区）読了。著者は、松浦伯爵家（松浦さんは当主夫人）のファンだったらしい。
午後、外出。不在中に、Hr氏、Kby氏来訪。
外出先は、自由が丘。以前、東京駅でビラをもらい、自由が丘にチベット・ショップがあるらしいのを覚えていた。詳しい場所は知らなかったが、尋ね尋ねて、「マニマニ」という店へ。ヤクの毛で編んだラマ僧の儀式用（という）帽子（9800円）を買う。
店のおねえさんによれば、「これ、買ったの、日本でまだ２、３人だと思う」とのこと。病院に帰ると、Gt氏、Hykさん来訪。３人で帽子をかぶり、誰がいちばん似合うか競う。
  
●Dec.8,1998 Tue.
Ymd主治医から、病理解剖の結果を踏まえた詳しい説明を受ける。
１：いちばん注目されたリンパ腺への転移は、患部に近い群、肝臓に近い群の両方とも、全く認められなかった。
２：浸潤の深さについては、粘膜と筋肉を突破、最も外側の漿膜に達していたが、腸壁の外には出ていなかった。深度の分類は、ABC法でいうと、最も軽微なＡ、JKL法でいうと、軽いほうから２番目のK期になる。
３：１、２の条件下での５年以内再発率は、５％。つまり、20人に１人の割合で再発する。ほとんどが、肝臓への転移であるという。
以上の結果から、Ymd主治医の提案は、次の通り。
１：２カ月に１度の血液検査で、腫瘍マーカーの動向をチェックする。１年に１度程度、CTスキャンを受診する。
２：抗がん剤については、この程度の軽症者に対する効果は検証されていないものの、もう少し重度の患者に若干の効果が認められるUFTという薬がある。１日３回300mgづつ、６カ月間服用。副作用は全くない。「飲んでものまなくてもいいですが……」といわれたので、即座に翌日からの服用を決める。気休めか。
●Dec.7,1998 Mon.
最後の点滴が終わり、完全チューブレスとなる。シャワーも解禁。外出もOKに。
食事も主食こそ七分粥だが、副食は通常。昨日の夕食は、調子に乗ってぱくぱく食べ過ぎ、胃がむかつく。病院に入って、苦しい思いをするのは、全部、食べ過ぎがらみとは。今日は、ぱくぱくを控える。
 だが、好事魔多し。主任看護婦さんが来て、部屋を変わってほしい、と。容態が悪化している人がいて、個室に移す必要があるが、空きがない。見たところ、あなたは元気そうなので、と。ことがことだけに断れず。
移された部屋は、462号室。６人部屋。きっかりベッド２つ分のスペースで、便利家具は一切なし。いただいたお花を飾る場所もない。これからは、せいぜい出歩くことに。
Um氏来訪。
森田くん、菊地くん、岸本くん、原さん、三田さん、松浦さん、黒川くん、大挙して来訪。見舞いは「ついで」だとかで、今夜は忘年会なのだそうだ。病院を抜け出て、ついて行く。
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組合とのボーナス交渉のため、会社に戻った菊地を除く見舞い組が参加。
ただし、穴吹は、女性３人が作ってくれた「日の丸お粥」（鎮信流）と吉兆の黒豆、一保堂の緑茶でがまん。シャトー・ムートンは匂いだけ。無理矢理、ソファに寝かされたりもし、一応病人扱い。
原邸は、東京タワーを指呼の間に望む都心の一等地に立地。黒川のオフィスもすぐ近所で、草深い浦安に住む彼は、大いにうらやむ。
９時５分前に、ご主人より、「これから帰る」の電話。一同、大急ぎで飲食の証拠を隠滅し、蜘蛛の子を散らすがごとく、城山タワーを脱出。