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Noriko's Midnight Journal

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UNCLE KILLER Ⅱ
August 24,1998

タイトルはWEB管理者が独断でつけています

出現

今年の２月まで２年間、世田谷区の農園を借りていた。広々とした所で、お花をいっぱい育てたかったからだ。

ほとんどの方は、野菜を育てていたので、私も、簡単そうな、小松菜や大根の種を蒔いてみた。こんな苦労をして、店では大根１本100円なのかと、農家の方に頭が下がった。
契約した４番の畑に、初めて行ってみたのは、まだ寒い３月。

備え付けの鍬や鋤（実は、どれが鍬か鋤か判らないのだが）を使い、まずは土を掘り起こさなければ、と頑張っていると、１番の畑にいたおじさんが見かねてやって来た。道具の正しい使い方を教えてくれる。一緒に働いて、半分くらいは手伝ってもらい、大いに助かった。

後悔

最初は、前年に種を蒔いておいたアグロステンマ（麦なでしこ）の苗を植え、夏のワイルドフラワ－の種を畑中に蒔いておいた。
６月頃、アグロステンマはみごとに咲き揃い、背の高い、優しいピンクの花の集団がゆらゆらと風にそよいでいるさまを見て、おじさんにはもちろん、通りがかりの人からさえ珍しがられた。畑を借りてよかったと思ったものだ。

しかし、夏は暑い（当り前だが）！　バケツで水を遣る事10数回。長いホ－スを持っても行ったが、水道の蛇口からギリギリ。ワイルドフラワ－も、成長するまでどれが苗やら雑草やら区別が付かず、放っておくと雑草だらけになるし…。

おまけに、自然の野原に咲くような花は、１つ１つが小さい。畑中がピンクに染まると思っていたのに、期待外れ。この時点で、すでに畑を借りたことを悔やんでいた。

凝固

１番畑のおじさんは、自分の持ち分以外に、畑の空き地を最大限に利用していた。神出鬼没で、私が行くとどこからか、「よう！」と声を掛けて、私の畑にケチをつけるのだった。
夏用大根を植えているのに、「大根は冬じゃないと、うまくないよ」とか、ワイルドフラワ－だと言うのに、「これは雑草だよ」とか。そう言いながらも、大根の間引き方を教えてくれたり、一緒に雑草抜きを手伝ってくれたりした。
おじさんと書いているが、実はおじいさんに見えた。畑仕事が趣味だけに、真っ黒に日焼けし、皺だらけ、眼は点の様に小さく、素朴そのものと言った風情。
「おじさんて、幾つくらい？」
「何で？」
「うちの父と一緒くらいかな、と思って」
「お父さん、幾つ？」
「80」
おじさんは固まってしまった。失礼なことを言ってしまったのだ、と気づいた時は、後の祭り。
「俺よう、老けて見られんだ！」
「ごめんなさい、70代？」
固まりはほぐれなかった。どうやら、60代だったらしい！

50にもなって（その時はまだ49だったかな？）気遣いがなさ過ぎた！

挫折

秋になり、植木鉢１つ分のマ－ガレットが、１メートル四方に広がったのには、多少気をよくしたが、だんだん寒くなってくると、畑からますます足が遠のいた。
「よう！半年ぶりだねぇ！」「まさか、１と月くらいですよ！」。この時は、空き地に育てている菊をいっぱい貰った。花屋さんで売っているような上等そうな菊で、盗まれないようにネットで囲ってあるのを、一個所一個所ひもを解きながら。
そうこうしているうちに、年が変わり、完全に畑は挫折した。世田谷区に返そうとも思ったが、一部はすでにおじさんがネギ畑にしていた。
相談すると、全部使わせて欲しいと言う。今度は玉ネギを植えるから、出来たら（日付まで言われたが、忘れてしまった）勝手に持って行ってよいと。そう言われても、勝手にというわけにもゆかず……。だいいち、畑に行くのが面倒になっている。何日も何か月も経った。

訪問

ある日、玄関を出たところで、どこかで見た人に出会った。
「あっ、おじさん！」。畑でしか会ったことがないので、わからなかったのだ。「あ－、やっと会えた。玉ねぎが出来たから、持ってきたんだけど、いつ来ても、お留守！」
前に書いた角の家のＩさんも、畑仲間で、彼女から我が家の場所を聞いてきたと言う。「電話番号を聞いときゃ良かったよ」。というわけで、番号の交換をした。
その後、菊がもうおしまいだけど要るかい？、とか、ネギをとりにおいで、とか電話がかかり、その時だけ畑に行った。

交叉

頂いてばかりなので、おじさんにお礼のお菓子を届けることにした。電話をし、都合を聞く。何時までは、家の花の手入れで在宅、と聞いて、今からすぐ出るので20分くらい後に御宅へ、と約束。
地図で見ると、畑から環八を越えて、その直線上にあるらしい。環八まで来ると、そこは横断できない道だった。１本右の道を行く。
おじさんの家はすぐわかった。お嫁さんらしき人に尋ねると、さっきまで居たんですけど、履き物がないから、どこかへ行ったのかしら？との返事。事情を話してお菓子を渡し、その後、図書館に回る。

翌日、角の家の人に出会うと、「昨日、畑のおじさんが探してたわよ」。（彼女は、何故こうも私のことを知ってしまうのだろう。相手は、約束しても会えないというのに）。
おじさんはせっかちな性分のようで、待ちきれなくて、迎えに来てくれたらしい。私から見て左の道から来たため、行き違いになったと、あとでわかった。

別離

２月。いよいよ農園を放棄できる（！）時が来た。おじさんから電話があり、ネギを全部抜いてしまうから、いついつまでに取りに来るように、と。
何日か後、やっと重い腰を上げて、電話をする。おじさんがお留守だったので、お嫁さんに、畑のおネギをいただいて行くことを告げると、どうぞどうぞとのこと。
２畝分と言われてはいたが、１畝分くらいを持って帰る。友達にも分けた。食べきれない分は、細かく刻んで冷凍保存にした。おじさんのおネギは、柔らかくて甘味があり、美味しかった。

それから……、金の切れ目が縁の切れ目、じゃないけれど、畑と縁が切れて、おじさんともそれっきりである。それにしても、ほんとは何歳だったのかなぁ???

みた・のりこ / ７期天国 / 七福会

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