山に惹かれ　山道を辿り始めて　半世紀だ　何故　山の呼び声に惹かれるのだろう　不器っちょな私は　何度か　恐い目にあっては立ち竦み 何故　こんな所にでかけたのかと思った　それでも　また出かけるのであった

時間と労力をかけて　出かけてきたのに　悪天候で　一週間テントの中　という山もあった　山は非情だと思った　しかし　その非情さが魅力なのだ　と思えてきた私は　山恋いをしているのだ　そして　恋は　人恋であれ　山恋であれ　それは非情なもので　恋とは　遂に　片思いなのだと　思い始めた

相思相愛というが　私には無縁のことで　「より多く愛する者は　常に敗者である」と書いた作家の一行に納得した

この頃　山は　恋の相手としては　偉大に過ぎるのでは　と思うようになった　だが　恋は盲目なものだから　私は　山恋いから　目覚めないであろう　崖っぷちで立ち往生している夢から醒めて　冷や汗をかいている夜が　増えてはきたが

私は　いまも　しばしば　山の呼び声を聞く　私は　その呼び声を有り難く思う　我が恋が　遂に　片思いであることに　もはや不満はない