４月１３日、京都で「サイレントウォーク」（沈黙の行進）がありました。イラクでの理不尽な戦争で犠牲になった人たちの追悼と、あらためてこの戦争にNOの意思を示したいというウォークでした。いつもはラップのリズムで太鼓たたいて踊りまくるニイチャンネエチャンたちがいたり、２ｍ以上もある竹馬に乗って長いスボンをはいて上手に歩く「背高女」の女性がいたりして、とても賑やかなのです。でも昨日は、集まった約２００人全員が黒っぽい服装でプラカードを掲げ、京都市街を文字通り黙って歩きました。

出発前のリレートークで、喪服をビシッと着た堂々たる体格のひとりのご老人がマイクを握られました。以下はその方の話されたことです。



「私は７６歳になります。海軍特攻隊の生き残りです。飛行機ではなく、特殊潜航艇で敵艦に突っ込む特攻隊員でした。太平洋戦争の末期に沖縄から出撃して、五島列島のあたりで、アメリカ軍に降伏して命ながらえました。１８歳でした。浮上して、頭に巻いていた白い鉢巻を手首に巻いて手をあげて、米軍の捕虜になりました。

その時、ボタン一つで自艇もろとも爆発させることもできたのですが、そうしませんでした。自分の命が惜しかったのではなく、自分が出征する朝、母が言ったことを急に思い出したのです。

その朝、最後になるかもしれない朝食を長い時間かけて泣きながら作っていた母が、こう言いました。『あなたのお兄さんは戦争反対といって逮捕されて殺された。だからあなただけは、どんなことがあっても、捕虜になっても何でもいいから絶対に生きて帰ってきてほしい』。自分の特攻隊の仲間はほとんどみんな死にました。生きながらえた私は戦後ずっと、いろんな形で平和を訴え続けて今にいたっています。今日、こうしてピースウォークの集まりに来てみると、自分の孫のような若い世代の人たちもたくさん来ておられるのを見て、本当に嬉しかったし、安心もしました。どうか特攻隊生き残りの老人の思いを引き継いでいって欲しいと思います」



この話を若い人たちがシンとして聞いていました。目頭を押さえる女子学生もいました。

デモに参加するたびに思います。「こんなデモやってチンタラ歩いて一体何になる？」

たぶん何にもならないかもしれません。ピースウォークなんかしても無駄かもしれません。世界中のあれだけ多くの人々が、かつてないような大規模なデモをしても、結局この無理無体な戦争を止めることは出来ませんでした。

多くの無辜の人々が殺され、子どもたちの手足がもぎ取られ、ジャーナリストが殺され、人類の貴重な文化遺産は略奪され散逸してしまいました。全く、非力、無力な自分たちだなあ、と情けなくなります。

それでもなお声をあげ続けなければならないと思っています。こういう世界中の声、反戦の強い思いがあるということ、世界中がじっと見つめているということ、このことが力を恃んで暴虐の限りを尽くそうとする者にとって、少なからぬ「歯止め」になっているかも知れないからです。自分に都合の悪い報道は砲撃してでも世界の目から隠そうとするのも、やはり真実を見られていることが居心地悪く嫌なのでしょう。

いまに自由にモノさえ言えなくなる日がくるかもしれない。その前に、せめて自分は「こんなやり方はあかんと思う！」と言うことを言わずには気がすみません。

爆撃で両親と弟を亡くして自分の両手も失ったイラクの少年が、貧弱な、でも精一杯の治療を受けた後で、「ボクもお医者さんになりたいけれど、両手がなくてもできるかな」と包帯グルグル巻きで言う姿、孫の死体に取りすがって泣く老人の姿、鎮痛剤もなく苦痛にうめく子どもの手をただ握っているよりない母親の涙。

こういうことを黙ってみてはいられない。せめて、せめて「戦争はあかん！」と言い続けたい、自分のできることをしたいと思います。非力・無力は百も承知です。