この古本については、今回の古玩城の冒頭、面具神像の項で、かなり詳しく触れた。記事を書くに当たって、227点の掲載図版を繰り返し眺めているうち、うん、これはなかなかいい本だぞと、確信。時代と民族の文化を反映してか、儺面の様式、表情は実に多彩、多様である。無用の言葉を費やすより、その一部を実際に見てもらったほうがよいと思う。併せて名称も記しておいたが、どんな演目にどんな役割で出演するのか、本にある解説からは、よくわからなかった。

左：開山　中：関公　右：開路



左：秦僮　中：土地　右：甘生



左：霊官　右：和尚



左：秋姑婆　中：蒙官　右：小僮



左：唐氏太婆　中：金角　右：柳毅



左：龍三　中：呑口　右：龍王

土産物屋でその土地の郷土玩具があると、つい見入ってしまう。全国的に知られているのは、陝西省鳳翔県の紙粘土細工で、何点か買ったことがある。もっとも、最近作られたものは、風趣に欠け、またかさばって持ち帰りにくく、持ち帰っても、置き場所に困るのだが……。古玩屋に古いのが出ていることもあり、現代作品より趣に富んでいるので、これはたいてい買ってしまう。

　

左：陜西省鳳翔県　右：河南省淮陽県



山東省高密市。日本の郷土玩具に通じる雰囲気がある。
ここには紹介しなかったが、日本とそっくりなものもあり、
子どものおもちゃ文化も、決して日本単独で発生、
独自に発展したのではなく、東アジアの広い文化圏に中で、
お互いに影響し合って、今日に至ったことを暗示している

そんな新旧郷土玩具を集めた図録である。上掲の画像は、本書より転載したもので、筆者の所蔵品ではないので、お間違いなきよう。空港を利用する外国人向けに制作された英語版。地名などがローマ字表記になっているので、判別にやや苦しんだ。民芸シーリズの１冊で、ほかに剪絵や木版年画を取り扱ったものもあったが、いずれも翻訳料込みなのか、値段が割高で、買うのを諦めた。

子供用の郷土玩具を手に入れるのは、案外難しい。そこが民芸の産地であるとガイドブックなどで知識を仕入れ、いざ出かけてみると、どこで売っているのか、見当がつかないことが多い。観光名所の売店で発見できる確率が高いが、常に品揃えに目を配り、欠品をちゃんと仕入れているとは限らない。

この紙でできた龍のおもちゃが、当地の郷土玩具なのかどうかは不明。なにしろ、村にいくつも出ている土産物屋台で、これを売っていたのは１軒のみ。売り子のおばちゃんが、手仕事で自作しているのかも知れなかった。胴の部分が、アコーディオン状に伸び縮みする。孫３人に１個ずつ。当人たちがこんなもので喜ぶとは思えないが。

内容をよく吟味せず、「老」とか「玩」の文字が題名にあったというだけの理由で買った。「老夫説老叢書」というシリーズの１冊で、年寄りが伝統的な習俗や文物について解説するのが趣旨らしい。著者の名前は、耳×３＋金×３＋木×３からなっていて、いかにもペンネーム。しかし、有名な現代作家で、湖南省の作家協会の副主席だという。人は「三耳先生」と呼んでいるとか。

金と同等の価格で取引された最高級印材「田黄」から、枕、箸などの日用品、子どものおもちゃまで、話題は多岐にわたっている。なかで目を引いたのが、「白綾帯・銀托子・琉★（＝王＋黄）圏・緬鈴」という項目。いずれも小説「金瓶梅」に出てくる性具で、どんなものか、翻訳では詳述がはばかられていて、よくわからなかった。この本は、それについて言及しているのだ。で、どんなものかって？　まだよく読んでないので、わかりましぇーん。

陳氏というのは、清代に広東省で権勢を誇った一族。広州市内の中心街に、同族の合同祠廟を光緒帝期の1894年に完成させた。それが「陳氏書院」とか「陳家祠」とか呼ばれる施設で、一族の者が科挙受験準備のため、あるいは訴訟のため、あるいは商用のため、泊まり込むことができ、また、一族の懇親、結束のためにも利用された。

戦後は国に移管され、「広東民間工芸博物館」となっている。建物の外観、内装に、漆喰、陶磁、木彫など、創建当時の工芸技術の粋を駆使した装飾がふんだんに配されているからである。それは、日本人の目には過剰に映るが、中華文化の行き着いたひとつの極致といえる。その先は、香港、シンガポールの「タイガーバウム・ガーデン」まで一直線である。



「陳氏書院」の屋根飾り。詳細は別の項で

広東省広州市から貴州省貴陽市まで、たまたま乗り合わせた飛行機の機内誌２冊が、いずれも中国文物の特集を組んでいて、図版が魅力的だったので、２冊とも持ち帰った。中国の機内誌が文化財を取り扱っているのに、出くわすことが多い。たぶん、文化財は中国の重要な観光資源で、しかもふんだんに存在していることを意味しているのだろう。飲食特集が常にいちばん目立つ日本の機内誌は、歴史的背景の薄っぺらさを露呈しているのかもしれない。



明宣徳期琺瑯瓜蝶文瓜式灯座



清乾�驫�巻雲文犠尊

左の「中国国際航空」誌10月号は、明清時代を中心とした琺瑯と琺瑯彩と呼ばれる磁器の特集（写真上）。琺瑯は、日本では七宝と呼ばれている。以下、唐代の壁画、歴代絵画に描かれた団扇とその実物、さらに、科挙合格者が自邸に掲げた額（写真下）と、特集尽くし。



進士額。清咸豊９年（1859）に
進士科３位合格の「探花」となった
広東省出身の李文田の自筆



挙人額。清同治７年（1868）の進士科合格者
陳宝★（＝王へんに深のつくり）が
科挙受験資格を得た際に揮毫

「西南航空」誌11月号は、石窟特集で、西域から敦煌莫高窟、甘粛麦積山、山西雲崗、河南龍門、四川安岳、雲南石鐘山と、広範囲にわたり紹介している。また、台北。故宮博物院の紹介記事もある。

ターバンを巻いたインド人、あるいは、骸骨のように見えなくもないが、蛙である。長男は、どういう幼児体験からか、蛙のキャラクターが好きで、特に収集しているわけではなさそうだが、身辺に蛙ものが見え隠れしている。

１時間後には、成田に飛び立つという最後の最後、空港売店で見つけて、長男のことを思い出し、１個60元（900円）というのを、２つで標題価格に負けさせた。それでもまだ高いが、空港の売店だから、まあ、仕方がない。雑な造りだが、いちおうは七宝。琺瑯といえないこともない。上掲の宣徳、乾�髏ｻとまるで違うのは、これまた仕方がない。

前回の「魔都古玩城」の書籍の項で紹介した本である。それを読んだＮ山イラストレータから、「ぜひ欲しい。今後画文集の類を見つけたら、躊躇せず、私の分も買ってきて」と。Ｎ波女神主や森本老師Ｔ秘書（元）、Ｓ田さんも興味を示したので、魏さん経由で上海在住の本好きガイド・Ｔ氏に依頼、５冊買って、旅先の桂林に送ってもらった。で、希望者全員に配布。

こんどもまた、できる限り、地方都市の地図を手に入れた。街を歩いて、新聞売りの露店やキヨスクを探すと、たいてい見つかる。どうしてもない場合は、新華書店へゆく。が、営業時間が短く、閉まっていることが多い。今回、入手できなかったのは、貴州省榕江県のそれ。また、黎平県は大きい街でありながら、方角や道路の名称、接続記述がめちゃくちゃで、殴り書きのような地図があるっきりだった。笹田先生も地図好きであることが判明。複数買った場合は、お分けした。

貴州省の地図だけを別扱いにしたのは、この省を１冊にまとめた図冊がどうしても手に入らなかったからである。どこの省にも、その種の厚手の１冊本が出版されている。上海に出かけた際、最大の書店で探してみたが、貴州省のそれだけが、置いてなかった。

今回、貴陽市で新華書店に寄るのを失念、まあ隣の広西壮族自治区に行けばあるだろうと考え、桂林市の大書店を訪ねたところ、ない！　しかも、貴州省だけがないのだ。貴州省に観光客が流出しないように、意地悪しているのではないかと疑ったほどだ。で、１枚紙の貴州省全図と観光ガイドブックを買って、我慢しなければならなかった。

書家でもある南校の旬香さんから、出発前、お土産に墨を買ってきて欲しいと頼まれた。日本の書道界はいま、薄墨の全盛で、濃い墨がなかなか手に入らないのだという。来年、同人の書道展に出品する作品には、どうしても濃い墨を使いたいので、なるべく黒く、濃いのを、と。値段は、3000円くらいで、とも。

頼まれてはみたものの、書道をたしなむわけではないので、どんな墨が濃いのか、見分けがつかない。魏さんが、知り合いの書家に電話をしてくれたが、先方は、「その人は絵を描くのか、字を書くのか。絵なら油墨だし、書なら松墨だし」と、話はますますややこしくなる。

結局、最初に訪ねた貴州省の貴陽文物総店で、「とにかく黒いのを」といって選んでもらった２本だけしか、買えなかった。左側の「黄山松煙」は、名称から判断して、松墨なのだろう。硯の産地としても有名な安徽省歙（きゅう）県製。製造元「老胡開文」は、清乾�驫�1782年の創業で、観光コースになっていて、製造工程を参観できるらしい。出自はけっこうなことであるが、安すぎるのが気になった。

抗癌剤は、細胞分裂の速い部位を攻撃する。癌細胞は健常細胞より、分裂速度が大きいので、それを識別基準にするのだ。しかし、通常の細胞で、分裂が速い場所もあり、誤爆されることになる。まず、骨髄。誤爆で白血球が減少、感染症にかかりやすくなる。次ぎに小腸。誤爆で活動が弱まり、その操業停止は胃から大腸まで、消化器全体に及び、極端な食欲不振に陥る。なにも食べたくなくなるのだ。

筆者も、抗癌剤の投与開始以来、胃腸障害に悩まされ続け、せっかく中国に出かけても、その多彩な料理を試す楽しみをあらかじめ奪われていた。

救いは、お粥であった。お粥は包子と並ぶ中国人の朝食の定番で、どこのホテルでも、朝のバイキングでは、２、３種の粥が用意されていて、客はそれにピータンやザーサイをトッピングして食べる。そんなお粥だけは、不思議にすいすいと胃腸を流れてゆき、前回の上海・浙江旅行以来、熱心なお粥派に転向した。帰国後も、朝は毎日お粥である。

トッピングに必須の食品が、豆腐乳（トウフールー）、あるいは腐乳と呼ばれるこれである。豆腐の元の豆乳を発酵させたもので、酒や唐辛子などの香辛料で味付けされている。地方によって、組成や味わいが微妙に違う。写真左は、貴州省産。右は、広西壮族自治区の桂林産で、「三百年歴史」「桂林三宝之一」を謳っている。「植物性チーズ」ともいわれ、パンに塗って食べられたりもするが、お粥に混ぜると、味が一変する。

この豆腐乳が日本では手に入らない。沖縄のトウフヨウが比較的これに近い。とゆうか、明らかに豆腐乳から派生した食品である。沖縄食材店で買えるものの、甘すぎるのと、高級品は小瓶で2000円くらいする。大塚食品が、「あわ紅豆腐」というのを売り出していて、試してみたが、味がゆるい。

今回の旅行では、豆腐乳を買い込んで帰るのが、ひとつの目的であった。中国のスーパーでは、どこでも安価に売られていて、とくに貴州省や桂林市の産品は、全国的にも高名だとか。いま毎朝、お粥に混ぜて、おいしくいただいている。

辣椒（ラーショウ＝唐辛子）＋花椒（ホアジョウ＝胡椒）の辛さを好む中国の３大地方は、四川省、湖南省、貴州省である。３省の人間の辛さ嗜好を形容した次のような言い方があると、ガイドのＹ君から教えられた。他の項でも触れるかもしれないが、ついでなので、記しておく。

四川人不怕辣
（スーチョワンレン・プーパーラー）
四川人は辛さを怖れない

湖南人辣不怕
（フーナンレン・ラープーパー）
湖南人は辛くても怖れない

貴州人怕不辣
（グイゾーレン・パープーラー）
貴州人は辛くないのを怖れる

要するに、貴州人がいちばん辛いもの好き、というわけだ。３省の辛さには違いがあり、四川のそれは、唇が痺れるような辛さで、麻薬に通じるので「麻辣」（マーラー）、湖南のそれは、砂糖を加味することが多いので甘く、「甜辣」（ティェンラー）、貴州のそれは、「香辣」（シャンラー）。３省の料理とも、現地で食した経験があるが、そういわれると、そんな気もする。

ここに掲げたのは、上記３省から外れた広西壮族自治区の古鎮で漢族客家の名門一族が自家で製造した中国納豆（写真左）と辣醤（写真右）。貴州省には、「老干媽」（ラオカンマ）という一主婦の自家製から全国ブランドに大成長した辣醤があると、前回の「魔都古玩城」で触れた。このあたり一帯の地方では、主婦が唐辛子やニンニク、梅干しなどを使って、自家製辣醤を作ることが、ごく普通に行われているのだ。

筆者の朝食のお粥には、先の豆腐乳にこの辣醤を加えて、トッピングとしている。これだけで相当辛いが、同じ店頭で、「特辣辣辣」というのも売っていた。字面を見ているだけで、口の中が辛くなってきて、手を出せなかったが、Ｄ口さんは、「こんなん辛いうちに入らん」とばかり、「特辣辣辣」を買って帰ったが……。

貴州省の貴陽市のレストランで出たお茶が、いやに苦かったので、聞いてみると、「苦丁茶」（クゥディンチャー）という文字通り苦い、地元特産のお茶だった。貴州人は、辛さだけでなく、苦さにも強いらしい。

袋の説明によると――、貴州高原烏江沿岸の原始林に野生する珍しい植物、小葉苦丁茶の木から摘んだ新鮮な茶葉を原料としている。人体必須の栄養素を多く含み、苗族の間で、長寿の飲料として、2000年の歴史がある。口中で苦みはやがて甘みに変わり、熱を冷まし、脳の働きを促進、目がさえて思考力が高まり、抗菌消炎、コレステロールを減らし、消化を助け、血圧を下げ、便通をよくし、「火鍋料理の伴侶」とも呼ばれる――。

恒例のホテル提供の櫛一覧である。まだまだバラエティがあるが、いずれ２、３種に統合されてゆくのだろう。その兆候はすでにあり、左列最下のピンクの櫛は、ホテル名の刻印がなく、「両面針」という歯ブラシや歯磨き粉をホテルに供給するメーカーの製品だった。

●広州市東風東路・広東省文物総店　広州古玩と筆者の相性は、どうもよくないようだ。前回、地元ガイドの故意とも思えるミスリードで、広州の街を文字通り走り回ったすえ、ようやく広東省文物総店を自力で発見したことは、折に触れて述べた。今回は、行く先も分かっているし、開店時間も承知、時間的余裕もあった。が……。

早朝の時間を利用して、陳氏書院を見物する予定で、バスは中山路にあるそこへ向かった、はずだった。筆者は、地図を眺めていたので、本来ホテルから南に向かうはずのバスが、北へ方向を取ったので、いぶかしく思っていた。しかし、交通規制で多少迂回するのだろうと、とくに指摘せずにおいたところ……。

バスは高速道路に乗り、どんどん北へ走り、郊外に至る。ようやく、バスがとんでもない方向、たぶん空港に向かい、一行をそのまま飛行機に乗せるつもりではないかと気づき、魏さんに注意を促した。「す、すみません」。全くの誤り。

といって、高速道路を逆走するわけにはゆかず、バスはそのままどんどん進んで、ようやく現れた料金所を出て、無理矢理反対方向の路線に割り込んで、市内に向けとって返したが、往復小１時間のロス。古玩のための時間的余裕は吹っ飛んでしまった。

で、また広州市内を駆け回ることになった。地元旅行社が教えてくれた広東省文物総店は北京路にあるという。どう考えても、前回の場所と違い、筆者は、魏さんに、「そこは違う。ぼくの記憶では、東風東路」と断言して、そちらにタクシーを走らせた。筆者の記憶は正しく、地元旅行社の情報は、またもやでたらめ。

タクシーを降りて、数歩で店という寸前で、変なおまわりさんが現れ、交通規制中なので、迂回せよという。その迂回路がとんでもない回り道で、以下の写真のように、下町の小道をあっちへゆき、こっちへ戻り、まるでカフカの「城」であった。小走りに走って、ようやくたどり着いて、ろくに吟味もせず、筆筒を買い込んだことは、すでに書いた。



迂回路。大通りから１本裏道に入る



広東・香港のそこかしこに咲く紫荊花



造形専門学校の仕掛品



この街にも榕樹（ガジュマル）



高層ビルの１階に入居



客の姿はない

魏さんが、「もう１軒、ここの支店があるようですから、行ってみましょう」というので、またもタクシーで急行。そこは、民間の古玩屋が集まって、新しくできた古玩城で、省の文物総店もそこに出店しているのだった。それに関しては。次項で述べる。


●広州市文徳路広州古玩城・広東省文物総店分銷店　その古玩城に着いたときは、最終集合時間まで20分を切っており、先の文物総店よりも慌ただしく、ろくに見もしないまま、２つばかり買い込む。「さー、もう10分しかないです」と、魏さんがいい、タクシーに飛び乗って、集合場所のホテルに、時間通りに着いた。



民間の古玩屋



文物総店の支店

古玩城がある文徳路周辺は、文具、画材街でもあるらしく、筆や墨の専門店もあった。民間古玩店を１軒も覗けなかったのより、もう少し時間があれば、南校の旬香さんに頼まれた墨のもっとましなやつが買えたかもしれず、それが心残りであった。



周辺は文具・画材街。
「三多軒」という店（右端）も。
神田に同名の書道具店がある


●広州市・東方賓館商場　投宿した東方賓館のすぐ脇に、衣料や袋物を安売りするマーケットがあった。もともとは、東方賓館直営だったらしいが、現在はテナントに売り飛ばし、高級品の店は、１、２軒しか残っていない。あとはチープな土産物屋ばかりである。

女性はそんな店が好きらしく、「ちょっと覗いてみるわ」と入ったきり、小１時間も出てこない。その点を非難すると、「よくゆーわ。古玩屋に何時間費やしてると思っているの？　それにずっとつきあってあげてるのよ」と。まーそーかな。



値切り倒すのも中国ショッピングの楽しみ


●広州市中山路・陳氏書院　この施設については、先に触れた。古玩を並べた売店があり、白磁に文字を彫り込んだ筆洗にちょっと気を引かれたが、負けて1000元（１万5000円）とべらぼーなことをいうので、パスした。



入り口から賑々しい


●広州市白雲国際空港売店　空港の売店は、もっぱら地図を買うのに利用している。古玩オークションの年度別価格を記した図録や、ジャンル別の古玩入門書なども置いてある。立ち読みしている間に、ついつい欲しくなり、買ってしまうことが多い。



管制塔（？）をバックに

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夜郎国見聞録
大宴小吃

貴州　貴陽

大聚龍園食府



レストラン前のディスプレー。左は煙草と酒を売る店



玄関先に大晦日と新年の特別料理の宣伝



まずは最初の宴会



貴州名物は、苗族料理「酸湯魚」。
トムヤムクンに似た酸っぱい辛い魚スープ。
ベトナムやタイの食文化と通底している



この夜は、全18皿が出た。裏の名物は、犬料理「金鍋花江狗肉」



貴州料理は辛い。その辛さには段階があって、
薄辛、中辛、極辛、極々辛、極々々辛とどんどん辛くなってゆく。
が、全旅行を通して、現れたのは、薄辛ばっかり。
「メンバー中の病人の体調を慮って」とは魏さんの説明だったが、
辛いのは苦手という自分の好みに合わせた選択だったようだ



汀里、Ｄ口さんの大酒飲み２人が、
最初のこの夜、禁酒宣言。
ええーっと、みんな驚く。
しかし、禁酒を貫くため、
「わざと痛風の薬を持ってこなかった」
という汀里が、Ｄ口さんに勧めて、
「１杯だけならええでしょ」と。
Ｄ口さん意外に意志が強く、辞退


華美達神奇大酒店



宿に戻って２次会。
「１杯だけなら、ええんちゃいますのん」
「う〜ん、１杯だけねぇ」



「ま、１杯だけならええか」
１杯ですまなかったのは、ご推察の通り



こちら、１杯だけなんてケチなことをいわない酒飲みたち


全国連鎖　湘里人家



翌昼食の湘菜レストラン。
湖南料理も辛いはずなのだが、ここも薄辛

貴州　凱里

苗郷楼



ホテルの目の前にある苗族料理店



何が出て、何を食べたか、忘了



客が少ないので、暇を持て余す苗族の少女


金冠大酒店



翌朝、ホテルの玄関を出たとたん、
苗族おばさんに急襲されたのは、先述の通り


巴拉河

巴拉河という穏やかな流れに沿ってバスを走らせていると、棒の先に亀のようなものをぶら下げた男が立っていた。「スッポン！」と魏さんが叫ぶ。「このへんは全部天然物。養殖しても、こんな山奥じゃ、採算とれませんから。次ぎに売り子が出ているところで、バス止めて買いましょ」。しばらく走って、「いや、さっきのところまで戻りましょ」というわけで、スッポンを買いに、バスは引き返した。

右の流れが巴拉河。スッポンはこの川育ちのようだ

　

食いついたら離れないんでしょ、雷が鳴るまで

　

２匹で13元（195円）。「もっと大きいのないの？」

　

もっと大きいのと取り替えさせて、
３元（45円）追加。スッポン売り、憤然。
値段交渉の間に１匹が脱走を図るも、
「手錠のままの脱獄」は失敗に終わる


雷山　山野菜酒楼



その日の昼食レストランで、１匹が鼈鍋になった。
厨房に入り込んで、コックにつきっきりで
指示を出していた魏さんによると、
「なかなか腕のよいコックでした」。
間接的に、自分の腕前を褒めているようでもあった



鼈鍋の到来を今か今かと待つ



ほー、これがその、アレか……



思わず、笑みがこぼれ、よだれが垂れる。
鶏と生姜を一緒に煮込んで臭みを抜いた



この料理屋で１匹が成仏。
もう１匹は、「１日に２匹食べると、
収拾がつかなくなる」という理由から、
翌日回しになった

貴州　榕江

城中城酒楼



とくにどーってことない店です



とりあえずビールを豪勢に並べてみた


碧雲大酒店



宿も特には……。
エレベーターがなく、
４階の自室まで上り下りするのが、
ちょっと骨であったが



ホテル附属らしい朝飯屋の拉麺とビーフン、お粥さんは、
野菜スープをぶっかけただけだったが、温かくておいしかった


地捫　接待服務中心



外国人旅行者が食事する料理屋が
村内にないので、接待所を利用。
氷雨の降るような寒い日で、
震えながらストーブで暖を取る



みんな何かを待っている。ゴドーでも待っているのか？

みんなが待っているのは、前日のスッポンの片割れである。生き残った１匹は、バケツにかくまわれて、この山奥の村まで同行した。そして、前日の料理屋のような優れたコックがここにはおらず、魏さん自らが解体し、鍋に仕立てた。「いい地鶏がいなかったので、生姜と胡椒で味付けした」という。「でも、ちょっと薄味過ぎたかな」と。

は〜い、おまっちどーさま



遺影を押さえるシラタニ・カメラマン



はふはふ。温かいのがなによりのご馳走でした



接待所は文化センターも兼ねていた

貴州　黎平

黎平大酒店



ホテル内で夕食を取った唯一のケース。
「今晩はホテルのレストランでいいですか？」
と魏さんに問われ、「なんで？」
と問い返したが、返事がなかった。
「疑似披露宴」の陰謀があったのは、既述。



「新婚旅行」だというので、
別室つきのスイートをあてがわれたが、
結局はみんなの飲み会の場になってしまった。
以下、副音声のみ



わいわいがやがや



がやがやわいわい



わいわいがやがや



ちゃっちゃっちゃっのちゃ



ちゃっちゃっちゃっ

翌朝、ホテルレストランのガラス窓に妙な文字を見つけた。「やまいだれに自＋人＋匕」（写真下）。仮に★で表すと、牛★と羊★がある。元／斤の表示があるので、なにかの料理の値段を示していると想像された。魏さんに尋ねてみると、一瞬いやな顔をして、「あれはピエと読む文字です」という。牛★は「ニューピエ」、羊★は「ヤンピエ」である。

黎平最高級のホテルでも「ピエ」が売り物

「ピエ」とは何か？　魏さんの説明では、バスケットボールなどの球体が、中の空気が抜けて、ぺしゃっとへっこんだ状態を指すらしい。座右の「新華字典」によると、「不飽満、凹下」とある。魏さんの説明をさらに聞くと、「牛や羊がお腹を減らした状態」とのこと。

で、どんな料理なの？　牛や羊の反芻動物が、未消化の草を胃に戻して食べ直しているところを殺し、胃の中の内容物を取り出す。未消化部分を濾過して取り去り、消化が終わった液体だけを抽出し、それをタレにして、焼き肉などを食べる。端的にいえば、牛、羊のゲロ・ソースである。トン族はこれが大好きで、たいていの店で出すし、自慢料理の筆頭にあげているところもあった。

「でも、生臭くて、私は食べられません」と魏さんはいう。「ピエ」について、最初に質問したとき、一瞬いやな顔をしたのは、イカモノ、ゲテモノ好きの筆者が、「食べたい」といいだしたらどうしようと思ったからにほかならない。しかし、「ピエ」を食べるチャンスは、この後もあったが、さすがに試みる気にはならなかった。魏さんも胸をなで下ろしたことだろう。

貴州　肇興

病を得て以来、イカモノ、ゲテモノには距離を置き、自制している。関心も薄くなった。今回の旅で記憶に残ったのは、青蛙料理である。日本でいうアマガエルかモリアオガエルか、親指ほどの小さな蛙だ。蛙料理といえば、巨大なウシガエルの腿肉のことで、フランス料理にも用いられる食材、といった程度の知識、経験しかない筆者には、内臓を取った青蛙が、骨付きで炒められ、青い肌もさして変色しないまま、何匹もが一斉に、つぶらな黒い瞳で食べ手を見上げている姿が新鮮に見えた。

女性を口説く際、居酒屋に連れ出して、必ずタタミイワシを注文する会社の大先輩がいた。「タタミイワシの無数の目が、罪深いぼくを睨みつけている」というのが殺し文句で、百発百中だと自慢していた。もう亡くなった人だが、生きて貴州に来ていれば、青蛙の目をネタにやっぱり女性を口説くのだろうかと思った。どーでもいい話ですね。肝心の青蛙の味は？　そーですねー。

骨ががりがりと歯に当たるところは、雀の焼き鳥に似ていた。ウシガエルの食感が鶏のササミに似ていることから、中国語で田鶏と呼ぶが、小型の蛙が小型の鳥の雀に似ているというのは、道理に叶っていよう。

もうひとつ、記憶に残ったイカモノ、ゲテモノがある。肇興の夕食に予定されていた郷土料理店に早めに着き、店の前の路上をなんとなく眺めていた。店の男女が、盥の中で動物の毛をむしり、汚れを洗い落とし、内臓を除去している。魏さんがやってきて、「左の女性が洗っているのは、うちが注文した鍋用の地鶏です」という。「右の男性が洗っているのは、ネズミです。隣のテーブルのグループの注文です。でも、ほかのメンバーには、ネズミのこと内緒ですよ。気味悪がるから」

ネズミ？　ネズミにしてはでかいが……。「山の中に住んでいる特別のネズミです。タケノコを常食しているので、タケノコネズミ、笋鼠といいます。猫より大きくなるのもいます。でも、ネズミはネズミ」と魏さん。精力がつくからと、店に勧められたが、断ったらしい。まあ、これにも食欲がわかず。昔と大変わりである。病気、相当重いのか？

イ同郷味園



左が地鶏、右がタケノコネズミ



タケノコネズミの内臓を取り去る



手前は地鶏鍋。その奥でタケノコネズミ鍋



「イ＋同」で１字。トン族のトンである。
漢族の中華思想により、歴史的に長く、
「けものへんに同」があてられていた。
「にんべん」になったのは、戦後


肇興賓館



全館木造。伝統工法で建てた



風情がある本館外観。内部は未見


肇興文化站





昼食も翌朝食も文化センターで

広西　三江

洋渓郷　慶雲旅社



貴州から広西に入って、最初の食事を取った道ばたの食堂



かあちゃんが炒める



とうちゃんは鯉を捌く。
街道崖下を流れる都柳江の産であろう



旅籠を併営



とにかく食おうじゃないか



なかなかいけるじゃないか


三江飯店



特記事項なし



部屋からの夕陽が眺められた


全国連鎖老字号　春記老鴨湯



毎晩乾杯している



筆者は、漢方ジュース「王老吉」で乾杯



家鴨をまるまる煮込んだ鍋が名物



「全国チェーンの老舗」を謳う。
「吉兆」さんみたいじゃないといいが

広西　桂林

旅行計画書で、魏さんは、即席麺など、非常食の必携を指示していた。「水着持参」の助言は無視したが、なにやら不穏な予感がして、全員がこの指示には従った。いま思うと、悪路車が立ち往生し、車中で夜を明かす事態もじゅうぶんにあった。想像以上に危機を孕んだ旅で、みんなの予感は正しかったのだ。

幸いにも非常食の出番がないまま、バスは広西の舗装道路に入った。出発前に占い師に旅行の成否を見てもらうほど心配していた貴州のガイドＹ君が、いちばん喜んだことは、いうまでもない。で、とりあえず用事のなくなった即席麺は、そっくりＹ君にプレゼント。Ｙ君は、日本のインスタント・ラーメンが大好きなのだ。特に味噌味。日本に行ったときは、必ず味噌を買って帰り、帰国後、味噌汁を作っていただくという。

日本の演歌も大好きだ。橋幸夫が贔屓で、「潮来笠」なんかをカラオケで歌う。車立ち往生の危険が去って、いくらか気分が軽くなったのか、Ｙ君は車中で歌い始めた。もともと歌好きの魏さんと、唱和したり、マイクを奪い合ったりしながら、一行は一路桂林に向けて疾走するのであった。

♪いたこっのいーたろー　ちょいとみなれば〜



♪はくじょーそーな　わたりどり〜



♪そっれぇでー　いいのーさ〜　あのうっつりぎーな〜



♪かぜがふくまっま　にしひーがーし〜


桂林人　聚福林



ラッキーが集まるところ、と英語表記



おしゃれな都会風レストランである



桂林で語学塾を開く新聞社の先輩、Ｉ記者と合流



Ｉ記者はハルビンで日本語教師５年半、桂林に移ってすでに２年


漓江大瀑布飯店



シラタニ・カメラマンとも旧知のＩ記者



大瀑布飯店の名の由来。毎夜、実際に水をぶちまける



恒例の２次会。先生、くつろぐ



２次会は、毎夜のように開かれた。
病身の筆者は、全部にはつきあえず、
代役として、大酒飲みの奥さんを派遣、
自室で先に就寝することが多かった

広西　陽朔

漓江遊覧船



広々とした特等船室



昼食は、まあこんなもんでしょ


西街伝人



陽朔のホテルのすぐ隣にあるこの店は、
日本でいう「鉄人」の経営で、要人の来訪も多い。
オーナーシェフは中央電視台の番組にしばしば出演



翌朝のこと、お釣りを渡した、貰ってないと揉めた。
僅かな金額のことで、鉄人らしくない了見だった


王愛源賓館



「王＋愛」で１字。座右の「新華字典」には、
「王＋愛」＋「王＋軍」で、
「黒竜江省の地名。現在の愛輝」とだけある。
アイグン条約で有名な場所だ。

商務印書館「新華漢語詞典」には、
同一の説明に加えて、ただ「美玉」と記す。

高校入学時に野井先生に買わされ、
以来使い続けている「角川漢和中辞典」、
白川静の平凡社「字通」、
三省堂「デイリーコンサイス中日・日中辞典」
には掲載がない。特殊な文字らしい。

広西　賀州

黄姚　豆腐作坊



粽やザル豆腐を作る工房があり、
客にできたてを食べさせる



醤油、塩、砂糖、好みの味付けをしてザル豆腐を食す



１碗１元（15円）。店番はおらず、
食べただけの料金を、箱に投げ入れる


黄姚　古鎮酒家



昼食は、地元随一のレストラン



料理は、店主の娘であろうか、小学生の少女が運んできた


温泉酒家



山中の温泉場。ここ以外に料理屋はない



この中に湯上がりが３人いる



湯上がりの飯は、うまいなー


温泉賓館



バルコニーつきの別荘風ホテルだ



笹田先生のスイートは、体育館のような控えの間つき



「先生、ま、いっぱいいきましょ」
Ｄ口さん、禁酒の誓いは？
「そんなんは、もうえーやないですか」



「お酒は、お酒はですねー、
まあ、飲まずにすめばですねー」



テレビは、インド・ムンバイのテロ事件を報じていた



♪ひーとり、ふーたり



♪さんにん　きました



♪よーにん　きました



♪ごーにん　ろくにん　たくさん　きましたよー

石灰岩の例の変な山は、広西を走っている間、見え隠れしながらも、ずーっとつきまとった。不思議なもので、奇矯なその形態も、見慣れてくると何の感銘も受けなくなってくる。田んぼのなかにそびえ立ったりしているそれなど特にそうで、ちらと一瞥することさえせず、車中はほぼ全員が居眠り。

どこまでもついてゆきます変な山

一行が目覚めたのは、工事中の狭い田舎道で、突然バスが止まったときだった。中型ダンプが道路をほぼ遮ったまま、悠然と石塊を積み込んでいる。終わるまで何時間かかるかわからないほど、悠然とした作業ぶりだ。道の両側に車が詰まり始めたが、作業員は意に介する風もない。

そこで、地元ガイドのＬ氏がバスを降り、すたすたと作業員に近づいて、ふたことみこと。ダンプカーは、作業を中断し、狂ったように走り出して道を空けた。どんな呪文をかけたのか、Ｌ氏に聞くと――。

「こういいました。あのバスには、きょう広州発の飛行機で東京に帰るお客さまが乗っている。もし、飛行機に乗り遅れるようなことがあれば、当社は莫大な損害賠償金を支払わなければならない。その全額を当然、おたくに請求することになる。10万元（150万円）を超すかも知れない。ダンプカーの番号を控えてあるので、いずれ連絡がゆくと思います。よろしくご協力お願いします」

逃げ出すダンプカーと、こともなげにバスに戻るＬ氏

広東　広州

広寧　翠湖酒家



ほこりっぽい街で、給油とトイレ休憩。広東省懐集県？



給油所のそばの屋台で
バナナを買った。が、バナナではないと、
魏さんはいう。「カナナ」なのだと。

いわれてみると、バナナより小型で寸詰まり、
果皮の色も濃い。隣同士の実が
ミトンの指のようにくっついていたりもして、
趣が違う。なにより、
味がねっとりとしてコクがある。

中国語で、普通のバナナのことを「香蕉」と呼び、
この「カナナ」が「芭蕉」なのだそうだ。
「これ、どこで売ってましたか？
買い物が上手ですね」と魏さんに褒められた。

だが、褒められるほどの上手では、実はなかった。
売り子のおばさんに値段を聞くと、
小銭を全部取り上げられ、 その分の「カナナ」を
どっさり押しつけられたのだった



昼食はここで



郊外のリゾート施設のようであった


南海漁村



前年に訪れた「広州酒家」が、めちゃくちゃ悪評。
名誉挽回のために魏さんが選んだのが、この海鮮料理屋。
投宿したホテルの部屋の眼下に見える店だった



ホテルから歩いてゆけるのが便利



海鮮食材のディスプレー



さー、こころおきなく食べてくださいよー



料理、まだ出てへんやんか


東方賓館



広州で最初にできた国営の５つ星ホテル



最後の夜だという理由で、今夜も２次会



病人もいちおう顔を出す



一夜明けた広州の街。
「南海漁村」のネオンも消えている。
長時間のおつきあい、謝謝。再見