先日、友達が「美味しいお沢庵には滅多に当ったことがない」と言い出した。私もお沢庵には好き嫌いが激しい。御茶漬け歴うん１０年の私にとって、ぬか漬けのお漬物はなくてはならないもの。お沢庵遍歴だって、大したものなのだ。

柿の皮で漬けこんだのがある。ほんのり甘くて美味しい。甘いのが好きという訳ではない。べったら漬けなどの甘さは苦手。やはりいわゆる「沢庵」と呼ばれるものがいい。

ぬかで漬けたもの、紫蘇で漬けたものといろいろあるが、味のあっさりしたのは、先ず大根の干し具合が問題。しわしわになっていて、噛むときにギジギジした感じがないといけない。このしわしわのが意外に少ないのだ。つるんととしたのなら、いっそのこと味の濃い壷漬けのようなのでないと、も１つ。



昔、友達からお沢庵が届いた。「よそからのいただきき物で、相当御託をいわれたので、高級なものらしい。あなたはお沢庵にうるさいから、味見をして、正直な感想を言って欲しい」と。さっそく賞味。塩辛い！　これじゃ、身体にも良くない。塩出しをしてやっと食べられた。

それにしわが全然足りない。するめじゃないけれど、噛めば噛むほど味が出る、というタイプではない。親しい人なので、そのことをすぐ話した。いただききながら、余りにも正直すぎたかも知れないが。



結婚したばかりの頃、三田の実家には自家製のお沢庵があった。これが絶品！　夫が小学生の時から通って来ていたお手伝いのおばさんが漬けてくれていたのだ。

毎年冬の初めに八百屋さんが大量の大根を持ってくる。物干しにそれを干す。そして、大きな樽に、塩とぬかを交互に入れて…、と説明は聞いたのだが、実際に漬けているのを見たことがなかった。塩とぬかの量などをちゃんと聞いておけば良かった、と悔やんだものだ。



友達と冒頭の話をしたその日、新聞に入っていたタブロイド版の地域新聞を見ていると、なんと「お沢庵の漬け方」が出ていた。それによると、１１月の半ばから１２月の半ばが漬け時だと。分量もこれで判る。私に漬けてみなさいという神の啓示ではないか。

ところが、そのお料理の先生は、行き付けの八百屋さんに頼んで、市場から大根の干したの（よくしなびたのが良い、とあった。やっぱり！）を買って来てもらうのだそうだ。干し大根を売っている店は、余りないとのこと。な〜んだ。

今から干していたのでは、時期がずれるし、第一、干し方がよく判らない。葉っぱと葉っぱを結んで、物干しにかけてみようか？　しわしわになるまで何日かかるんだろう？　お沢庵にする大根って、青首大根はだめなんじゃないの？と言う友達まで現れた。今時、青首以外の大根なんて売ってる？　益々意気ををそがれてしまった。



実家の父も、先のおばさんのお沢庵が大好きで、お土産によく持たせてもらったものだ。おばさんが年を取るにつれ、また三田家の家族が減るにつれ、いつのまにか漬けなくなってしまった。そのおばさんはもう他界している。

あの素朴な、しかしながら、しっかりと味の染みたしわしわのお沢庵。似たような味のものはないかと随分探し回ったが、ぬかで漬けたお沢庵で、おばさんのにかなう物は、未だに見つかっていない。

もし、私が自家製のお沢庵を作って、父に御土産に持って行ったりしたら、感激するだろうなぁ。おばさんのに匹敵する筈もないが。あぁ、幻のお沢庵！