もう数年前になる。友人のひとりから、「皮膚科でほくろを取って来たばかりなの」という話を聞いた。ほくろなんてあったかなぁ、と思った。でも、本人は気になっていて、切開してもらったのだそうだ。「Ｘ病院の皮膚科で」なんて聞いていた。ほくろを取った後、ほくろのある人を見ると、道ですれ違っただけの知らない人でも、「この人もとればいいのにと思うのよ」と言っていた。

そんなことがあった直後、偶然にも、別の友人がほくろを取りたいという話をし出した。この人のほくろにも、それまで気づかなかったが、言われて見るとかなり大きい。取りたいのも判るような気がしたので、先の友人の話をしてみた。彼女も同じ病院で切開し、５万円とか10万円とか、かなりの費用がかかったらしいが、取ってよかったと満足していた。

昨年５月、強い陽射しの中を出かけ、翌朝起きて見ると、鼻と口の間に、針の穴の大きさもないほどの小さな小さな吹き出物が２つ出来ているのに気づいた。１つはずっとそのままなのに、もう１つは、日に日に大きくなり、黒ずみ始め、たった１週間で、直径２ｍｍほどのほくろとなって定着してしまった。

自分のこととなると気になって仕方がない。２番目にほくろを取った友人に話すと、「そのくらいの大きさなら気にならないけど、嫌ならＸ病院へ行けばいいじゃない」と言われる。私も勧めたんだし、ごもっとも。しかしいざとなると、なかなか勇気が出ず、最近まで諦めていた。



ところが、１と月ほど前、夜通し編物をして、目を酷使した翌朝、目そのものも真っ赤に充血し、しかも目のすぐ下のまぶたにまた新たな吹き出物。同じように飛び出ている。最初はものもらいかと思っていたが、いつまでも治る気配がない。正面を見ていても、その突起が視界に入り、うっとうしいこと極まりない。

毎月送られてくる健康雑誌に、Ｙ皮膚科の記事が２度も出ているのが目についた。レ−ザ−だとか、アメリカで開発されたクリ−ムと同じ成分の物を調合しているとか書かれていた。他にも何軒か紹介されていたが、そこはわが家から比較的近い。１度行ってみようかという気になった。早速電話。たまたまその近くまで出かける日の予約が取れた。

当日、詳しい説明を受ける。「ほくろのように飛び出ているものは、液体窒素を患部につければ平らになります、皆さん喜ばれています」とのこと。液体窒素なら、近所の病院でも処置してくれそうだったが、まともな健康雑誌が紹介している病院だし、信頼できるだろうと、取りあえず、口の上の１つをお願いすることにした。

銀色の細長いボンベに入った液体窒素を綿棒に付け、ほくろの上を押さえる。ちりちりっと、痛みといえば痛みのようなものを感じたが、別にどうっていうこともない。３度それを繰り返した。



翌日から、ほくろはますます黒くなり、かえって目立つようになった。覚悟の上だったので、我慢我慢。だんだんかさぶたになってゆき、６日目には、端の方がめくれてきた。８日目の夜、洗顔後鏡を見ると、かさぶたがなくなっていた。４、５日はまだ芯が残っている状態だったが、その後は平らに。

薄いシミのような跡が残ってはいるが、飛び出ているのと平らなのとは雲泥の差。平らなら、お化粧でごまかせる。やったー！　しかも、費用は数百円だった。

で、今度は、眼の下の分にも挑戦。微妙な場所なので、「決して目の中に入らないよう注意してください」なんて、くれぐれもお願いをした。今は小さいかさぶたがついているだけで、最終段階に入っているようである。前回より日が経っているのが、ちょっと気がかりだけれど。視界から異物が消えただけでも、気分爽快。

シミだらけの顔から、１つや２つほくろが消えたとしても、他人から見れば、変わりばえしないことは重々承知している。それでも、２人の友達同様、それが女心なんである。「いっそのこと、顔に漂白剤をかけたら？」なんて言う口の悪い友達もいるが……。