私がよく利用している新玉川線でつい先日、満員の乗客２０００人を乗せたまま、電車がトンネルの中で立ち往生する事故があり、新聞でも大きく報道された。私の仲良し２人が、その事故に巻き込まれてしまった。その１人から直接聞いた話である。

急行電車に乗って、渋谷から暫く行った頃、突然ばしっと光が走り、がくんと電車が止まった。雷でも落ちたのかと思ったと言う。

「３０分くらい経って、ガセンが切れたので…、かせん、じゃなく、がせんよ…、ガセンが切れたって、車内アナウンスがあったの。『えっ、ガス栓？　火がついたら大変だ！』と一時騒然としたのよね」（ほんとかなー？　彼女はいつも物事を面白おかしく語る）。２人はそのまま２時間、車内に閉じ込められた。



ふだんスム−ズに走っているときには気にもしていないが、電車とトンネルの壁との間が、１０ｃｍしか空いていないらしい（そう言いながら、彼女が手で示す幅は２０ｃｍはあった！）。

それこそ、火事になったら、火の海になって逃げられないと思ったそうだ。電車の前後の扉（運転席の前？　そんな所が開くなんて初めて知った）を開き、用意された不安定な階段から線路に下りて、トンネルの中を隣の駅まで歩いたとか。

「私の母のように、足の悪い人だったら、あんなとこ歩けないわよ。それに水天宮から来た人（水天宮には、ＴＣＡＴ、即ち、ＴＯＫＹＯ　ＣＩＴＹ　ＡＩＲ　ＴＥＲＭＩＮＡＬがある）がス−ツケ−スなんか持ってたらどうするのかしらね？」。大変な思いをしながら、他人のことまでよく気が廻る人だ。

駅からのバスはどれも満員だったので、自宅のある二子までの直行をあきらめ、迂回ル−トのバスと大井町線の電車を乗り継いで帰宅した。いつもだと急行で１３分、駅から徒歩１５分の距離を、その日は、電車に乗ったのが５時半、家についたのは９時だった。



「大阪まで行けたわよ！」と彼女（ご実家が阪神間）は言う。車内で話した見知らぬ女性は、１台前の普通に乗れたけど、急いでいたので、先に着くはずだった急行を待って乗ったのに、と嘆いていたとか。

「それが運なのよ」と、その話を私と一緒に聞いていた１人が言った。実は、私たち聞き手の２人も、事故の日、一緒に出かけようと誘われていたのだ。それぞれ事情があって行けなかった。しかも私の場合、事故の前日に同じ場所に行き、同じ時間帯に新玉川線に乗っていた。１日違いでセ−フ！

「私、宝くじを買っても当たらないのに、こんなのだけ当たるの！」と、彼女は続けた。そして最後に一言。「教訓その１！　電車に乗る前には、必ずトイレに行きましょう！」。因みに、阪神大震災（彼女のご実家は全壊）の後の彼女の教訓は、「生き埋めになっても恥ずかしくないように、上等のパジャマを着て寝ましょう！」だった。