更紗染めの展示会に、友達と出かけた。その会場がちょっと変わっていて、普通の方のお宅だという。しかも、お庭に山野草や季節の花々が咲いていると聞き、それも楽しみで出かけて行ったのだった。

友達も私もお花が好き。そういえば、うちの庭に生えている花で、彼女が欲しがっていたのがあったことを思いだす。この日、会うついでに持っていってあげようと、ポットに移し、お水をやって、用意しておいた。一人静（ひとりしずか）と濃い紫のスミレ。白や薄い紫のスミレはあると言っていた。しかし……。友達と会った時、持ってくるのを忘れてきたのに気づく。友達も残念がっていた。

展示会場のお宅に到着。広大なお庭への門を入ると、ケヤキや桜の巨木。山帽子、万作、鈴かけ、と、公園のようだ。それぞれの木に名札も付けてあった。そして庭中、スミレが群生していた。それも、濃い紫の分。友達が歓声を上げる。



「こんなに沢山あるなら、１つくらい貰ってもいいんじゃないかなぁ」「今度、また持って来てあげるわよ」と、私。「でも、こんな赤ちゃんみたいに小さいのなら」「他人の家のものだもの」。そう言って、とりあえず会場に行こうと振り向いた途端、何とそこに女性が２人！──「いらっしゃいませ！」

「いやだ！　みんな聞かれてしまったじゃないの！」。友達も笑い出し、「ごめんなさい。花泥棒をしようなんて。咳払いくらいして下さればいいのに！」と。そんなこと､出来ますか！　「どうぞ、お帰りに差し上げますから」。１人はその家のオーナーだった。大笑いの中、友達が招待状を出す。

私達の謀議を聞いていたもう１人の方は、招待状を回してくれた人の先生だと判る。ハイキングや花が好きな私達のことをよく聞いているという話だった。招待状の主の顔を立てて、２人ともスカーフを買う。

改めて、お庭を見学。「エビネも咲き始めたから見てください」。他に、はなみずき、藤など。早速オ−ナ−がスミレを取って、彼女にプレゼント。



実は、いま友達の庭にある白のスミレというのも、さるお宅から失敬してきたものである。文京区にあるあの鳩山邸だ。公開されたばかりの鳩山邸をニュ−スで見た方から桜が綺麗だったと聞いて、その友達と私を含め、大勢で見に行ったのが３、４年前のこと。

念の為確かめて､と言われ、桜の様子を私が電話で問い合わせたところ、「お庭には御座いませんが、道中にございます」との答え。ニュースで見たというのに、変ね、とか言いながら集まった。

駅から、しばらく行くと、神田川の両岸に満開の桜並木。道中って、これのことね。大通りの向こうに鳩山邸の門が見える。これだこれだ。坂を登っていくと、曲った所からずうっと桜、さくら、サクラ！　はるか遠い玄関までそれは続いていた。

道中の意味が初めて判った！　これは庶民の感覚では判るはずがない。その帰り道、「道中」で、友達がなかなか降りて来ない。やっと来た彼女の手には、真っ白なかわいいスミレが。



一緒に鎌倉に行った時も、彼女は、見ず知らずのお宅の塀の外に置いてある鉢に、珍しいアジサイの花を見つけ、持っていたはさみで、ちょっと失礼。見つからないよう、身体で隠してあげたのに、そのはさみの音が、パチンパチンと響き渡り、うんと先を歩いていた仲間にも聞こえるほどで、大笑いになった。

私が以前、花の寺として有名なお寺を訪ねた際、ご住職と仲良くなり、いろんな花を挿し芽用に切ってよいと言われていたので、その日、仲間を連れて行ったのだった。いわば、花泥棒ツアー。

彼女は、そんな花を大事にし、ちゃんと挿し芽をしてふやしている。花泥棒はいけないかもしれないけど、他の土地にも新たな命をふやし、綺麗な花を咲かせ続けているのだから、許してあげてね（誰に頼んでんだか？！）。

ついでに、かくいう私も、売り家になって住人が居なくなった近所の家の山吹を、深夜こっそり切ったことを告白します。これも年毎に大きくなり、今年も立派な花を咲かせました。