義兄の病気
2004年6月25日

もう寝ようと電気を消しかけたらリンと鳴った。
やばい、当たってしまった。姪の泣き声が“おっちゃんパパ死んだ”と。朝埼玉から帰っている義姉を病院に連れてゆき、看病しているものには持っていったお寿司を食べて貰い、わたしらは病人の昼食を食べてまた来るからと引き上げた。まさかこんなに早いとは。

征治は嫁さんの次兄、昭和１９年２月生まれ　附高４期生です。
直近の青松の新聞表紙、関市長と柴田同窓会長のあいだに編集長として写っていました。
わたしにとっては先輩・友人で義兄になる。２月彼の家族とわたしら夫婦でこじんまりした還暦祝いもした。

征治が癌に罹ったのが３年前。そのときは大腸に出来ていて、手術をして肝臓に飛んでいた病巣も切除した。その後も検査を受けていた。１年半ほど前再発して今度は転移していて手術できなく、いろんな薬で治療。
抗がん剤と漢方の併用。ある時点では癌のマーカーの数値が正常に近いあたりまでになった。こんなにも飲むのかと言うほど薬の量は多かった。オブラートに包んで飲むのも時には嫌そうでした。少なくしようにもどれが効いているかわからないと。

半年前ほどから、だんだん会社も休みがちになり、自宅で療養するように。ある日、征治が痛みがやわらぐという次女の安楽いすで、わたしはソファーで２人とも寝っころがってしゃべった。

とうちゃんの３回忌を７月に予定していたが、わたしと妹でやってくれとか、死んだらこんなことしてほしいとか、こんなんなるんやったらお前が欲しがってたとうちゃんのゴルフ場お前の名前にしといたらよかったなとか。そんなとき治って連れてってくれたらええやんかとしか言いようがない。

こんなことも、
「痛いのがいやや」
「癌は悪くなったら早いで」
「俺の命いつまでもつんかな。夏はええけど冬どうかなと」
覚悟していたんかな。

亡くなる３週間ほど前に入院しました。痛みを和らげる薬のコントロールが自分で出来なくなったようです。もう耐えがたくなっていた時期だったのかも。
N病院に入院してすぐに漢方の治療をしている近大病院の診察がありました。わたしが朝迎えにゆき病院に帰る昼までその日は待合室で車の中でずっとふたりでした。痛がって傍にいるわたしもつらかった。

診察を受けていたとき、征治は思いついたように。
「ほんとのところ何時までですか」と聞いた。
近大名誉教授ははっきり言うと２〜３ヶ月かなと。
北京生まれだから、北京のオリンピックはみたいなと。
わたしはがっくりして聞いているだけでした。目標にしていたのかな、わたしは内心そんな短くないよなと声に出して言ってやりたかった。多分本人も心では否定してたんでしょう。

見舞いもしんどい日なんかは来て貰いたくなく、親戚でもうるさい奴は断ってくれと、家族に言っていた。
そんな会話の後にわたしが来たので、みんなで大笑い。
思い当たる親戚とはわたしと頭の先から甲高い声をだす関東の姪にきまっていました。“おれうるさいねんやろ。もうしゃべれへん帰ろか”と病人に言っても悪態もついてくれなかった。

主治医は同級生のN先生でした。
家族に会うたびに俺つらい、かなしいとかいややとか。
入院してからは医者ではなかった。近大に行く朝も征治を車椅子にのせてわたしの車まで連れてきた。看護婦さんや薬剤師さんに、わたしは言われた。「佐々木さん、先生にもっとしっかりするように」と。

Nさんに「あんた頼むわな」と柔和な声で頼まれる。
わたしは、頼むのはこっちやで。あんた医者やろと。
ええ友達やなーと。ここまでして貰ったらええやんかと。

亡くなる４〜５日前からは家族全員病院で看病した。
いわゆる外面はよくて、内面は普通ぐらいの夫や父親でした。
あと兄嫁がわが嫁に４日間なにか家族旅行してたみたいやったと。全くと言っていいほど家族との旅行なんて無かったようだ。

見舞いに行くのが嫌でした。
わたしのおやじも５５歳で入院。背丈は１８０ｃｍ以上９０ｋｇぐらいはありました。征治も同じような身体つきで、病名もおなじ。おやじはとことん痩せて亡くなったけど、征治はそこまで痩せなかったが、おやじの姿と重なります。
ひとつやってやれなかったこと。努力して取り寄せてもらったごく最近米国で認可された抗がん剤が打てなかった。

あいつの痛みが和らげたらと、知り合いの研究所教授や大学の医師にメールを送ったり、何冊かの闘病や解説の手記や本を読んだ。途中になった２冊は、もうやんぺ。読むことに意味が無くなったんだから。
死ぬことより痛いほうが嫌だと言った事がありましたが、もう我慢したくないと諦めたんでしょうか。
気が合う奴がいなくなるさびしさ。グットバイ。



征治葬送
2004年6月28日

今日は雨のはずだった。数日前の天気予報もくもりと雨のマークがでていた。雨男と故人は言われていた。
ゴルフでもあいつと行くとよく降られた。本人も自覚していた。

それが梅雨入りと先週発表があり、当日はいわゆる梅雨の晴れ間になった。前前日自宅で安置しているときはしとしと降り。それも前日のお通夜がはじまる夕方からはすっきりと。告別式はまったく雨のかけらも思わせない天候でした。

こんなに急いで逝ってしまうとは予定外でした。
葬儀の段取りを家族と会社の役員さんとできめました。
情けなかったです。

●かみそりの儀
死んだら剃髪の真似事をして仏様になる。お通夜の枕経を読んでからかみそりをあててもらった。わたしもかみそりの儀式をしました。夜中亡くなって気も高ぶって眠れなく徹夜、翌日風呂場でひげをそる。最近伸ばした評判の悪い白髪が多いあごひげを無意識にひとそり剃ってしまった。大変やと叫んだら嫁さんが何事やみたいに飛んできて“なんや、アホらし”助山のかみそりの儀。さいわい一ヵ所だけで無事でした。

●葬儀
大坂七坂のひとつに源聖寺坂があります。式場はとうちゃんの墓がある下寺町の源聖寺です。
友人による弔辞　織田（おりた）さんと診察で来れない内藤さんと西さんの両奥さんが心をこめて読んでくださった｡

織田さんが、大塚は強い自己主張も無く、どのグループとも付き合う奴だと、織田さんは市会議員で彼の応援演説では人は城・石垣と富士山が綺麗なのは裾野が大きいからだと、かっこよく弁士をしてくれたと、内藤・西の奥さんは涙声で4家族でまた旅行しましょうと、家族とは付き合ってゆきますと。聞いてるものにひびきわたるものがありました。

喪主である兄嫁は、挨拶はしないとなっていた。告別式の朝葬儀屋さんと打ち合わせをしていて喪主の挨拶はいいですねといわれて、そばにいた娘に「やるか」と言ったら「やる」と。式も終わりかけ、むすめが話した。来ていただいたお礼から始まり、病気の説明、入院の経過・もうここらで泣き声になってきた。泣くなら泣け、やめてもいいよと真後ろから声をかけてやりたかった。

彼女つづけました。N病院のみなさんがどれだけお世話してくれたかの感謝の気持ち・娘が泊り込んだ日に言い続けたうわごと“父は見積もりがどうのこうのと仕事のこと、右・左・行け多分サッカーをしているんでしょう”よう言うた、おまえは立派やと抱きしめたくなりました、私の方が泣きたくなった。彼女貝塚のだんじりについてきた姪っ子です。

●和尚
お経は分からないものと決め付けていたが、分かる言葉を挿入して征治を送って貰った。あそこまで平易なお経は初めて、戒名も一生懸命考えていただいた。2年前のとうちゃんの葬儀から、毎月のお参りで大塚家の縁も深くなってきていた。
見舞いの帰りお寺に寄ろうかなと思案してお寺のまえを通ると、和尚が車庫に車をいれておられる時でした。“ひょっとしたらそのうちひょっとします。まだ先ですが、その時はよろしくと”その夜中亡くなった。

和尚　図体（から）もおおきく草履も並ではない、汗かきでお経の途中タオルで汗を拭かれる。とうちゃんの時、毎月のおまいりでも見慣れた光景になっている。今度も汗を拭き吹きお経をよまれる。声は大きく節も見事です｡娘もわたしも好きです｡

こんどたまたま分かりました、兄さんがいて附高の18期生でした。わたしがおやじの亡くなるまえ1学期だけ講師をしていた学年、生徒だったんです。覚えていてくれていました。彼も脇導師をしてくれました。不思議な縁です。

とうちゃんの３回忌を７月にする予定でした。満中陰もそのころになります。時間をずらして同じ日にすることにしました。聞きました“二つやるとしたら何時間かかりますか”と。
答えて曰く“佐々木さんにあわせます”
とうちゃんの時お経が長いと言った、お返しでした。
列席者はあの時と同じメンバーですから、大笑い。
和尚とも友達になったと助山はかってに決めました。

最後のお別れですと、友達・知人の棺おけへの献花は延々と続いた。
あんたの葬送はおわりました。しゃーないなと。
これが、わたしから征治への弔辞です。グットバイ。



残したもの
2004年6月30日

年が違っていてもなんとなく気が合う奴がいる。征ちゃんとはそんな仲。温和で口数少なく、怒った顔をみたことがない紳士とよんでいい部類の人間でした。

付属のサッカー部のOB会で３０年以上まえ会った。当時の現役高校生はそれなりに大阪では強かった。大昔４期生は大阪の新人戦かでベスト４になった事があり、OB会結成の中心的存在だった。
わたしが中学生のとき、うつぼ公園のグランドでかれらのチームが戦っているいるのを見たことがあります。背の高い細身の上手とはいえないバックスがいました。それが征ちゃんでした。

西野や井守の兄さんの学年で、５期の部員は北沢さん一人だった。
家電の卸の会社にいて、日本橋に出店もあった。かって日本橋で住んでいて、小学校も日本橋小学校だというのでしゃべるようになり、わが店で洋服もつくってくれるようになった。
時々食事に誘ってくれて、そのあとは飲み屋めぐり。はしごが好きで、午前様になって３時４時まで付き合わされることも度々。

あるとき突然見合いしないかと、相手は妹。征ちゃんの妹ならええか。そんな具合でこんどは義兄弟になった。
ずっと欲しかった家族、それはやさしい美人の姉さんと頼りになる兄貴。頼りになるかどうかは別にして、兄貴ができました。

結婚したてのころ、忘れもしないえびっさんの日、かなり酔っぱらって部下の社員をつれて店にやってきた。
義兄“お前のよめさんより俺の嫁さんの方がかわいい、別嬪や” 部下の連中なんて反応していいのか　沈黙。
おまえはアホか、わたしの嫁はおまえの妹。あんたは知らんとでもいうのか。

あのころあいつは妹と別れても、おれとはつきあおうなともしゃべってた。
「もう返さんでええで」と言ってたと嫁に伝えたら、さすが我が嫁さんも怒った。「そんなことわたしに言わなくてええ。ものとちゃう、わたしは出てゆきません、あんたがでてゆけ」とわたしもついでにおこられた。

何でも話せる付き合いになってゆく。
同じ会社にいるとうちゃんの愚痴はよく聞かされた、とうちゃんからは息子への声援を聞かされる。とうちゃんは２年前８８歳で死んだ。とうちゃんに急いで聞くことでもあったのですか、それともあんたはとうちゃんが好きだったんですか？
とうちゃん“おまえはまだ早い”と追い返しておくれ。

先輩―友人―義理の兄弟・息子同志。
わたしは都合のいい使い分けをした。おごって貰う時は先輩・兄貴。ゴルフや遊ぶ時は友達。とうちゃんの前ではかわいい婿。それを黙って見過ごしてくれていた。
ただ、罹った癌には闘う同志の積りでいた。

癌が再発して、手術をすることになった。あす切ると言う日に見舞いに行った。下の毛まで剃って準備万端待っていたら、呼ばれてリンパにも飛んでいますから手術は見合わせますと。それは無いぜと、告げられた征ちゃん夫婦とわたしら夫婦４人なにもしゃべれなかった。

その日からわたしは禁煙することにした。タバコ断ち、気休めかもしれないが何かを共有したかった。２００３年１月のことでした。

３０年吸い続けたものを辞めるのはきつかった。ニコチンガムやくすりはいっさい使わなかった。禁煙の話やＨＰをみては、わたしとしては滅多にしない努力をしました。ガム・飴・仁丹・昆布・水のペットボトルはあちこち置いてありました。普段苦手な我慢ができたのはあいつの癌のせいです。いまでも喫いたいと思いますが、我慢しなくてやめていられるようになりました。わたしにとっては奇跡的な努力をしました、わが事ながら驚きです。

禁煙は征ちゃんの残していったもの。
嫁“征ちゃんわたしになにかしてくれたかな”
姉“佐々木さんを紹介してくれたよ”
嫁さんにとってわたしと言う連れ合い、わたしにとっての嫁さん。これも征ちゃんの形見かな。

佐々木の老後は、友達と遊びまわります。将来堺のとうちゃんの家で征ちゃんとは隣同士に住んでもええなと。気も使わんでええし、しゃべる相手にもなるし子無しのわたしら夫婦には格好の相手でした。
たまにはゴルフやハイキングでもして、嫁の悪口を聞いてもらう。

あんたのいないこれからは思惑外です。
母親の世話はだれがすんねん、会社はどうすんねん、家族は・・・いくつかの始末をほって行くのはあんたらしくないですよ。
グットバイ。