イラク派兵が現実になり、日本がとんでもない道へ一歩踏み出そうとしている大変な年明けになりました。こんな時に熟年夫婦の別れ話なんか、ほんま、どうでもいいのですが、これまた腹に据えかねる話だったので書きます。

最近、知人X氏夫妻に起こったことです。Ｘ氏は６０歳代後半。短気、勝気なところはあるけれど真面目で優しい人です。奥さんのＹ子さんも、つつましい賢夫人の噂高い人でした。Ｘ氏は、2度の会社勤めを終えて、数ヶ月前に無事退職してほっと一息、悠々自適の生活に入ったばかりでした。

その直後にＹ子さんが突如行方不明になったとのこと。何日経っても何の連絡も無く、置手紙その他一片のメモも無い。妻の失踪の心当たりなど全然ないＸ氏は、妻の実家や娘の嫁ぎ先など思いつく所には全部連絡したけれど、杳として行方は知れず。途方に暮れたＸ氏、ついに「警察に捜索願を出そうか」と思っているところに親戚筋を通じて連絡があり、奥さんのＹ子さんは娘の嫁ぎ先にずっと身を隠していたことがわかりました。

Ｘ氏が驚きあわてて、すっ飛んで行ったけれど、Ｙ子さんは「別居したい、今後の話は弁護士を通じてほしい」の一点張りで一切の話し合いに応じてもらえなかったとのこと！ （しかも、おおかたの財産を彼女が持って出ているらしいけれど、その全容もＸ氏にはイマイチわからんらしい！！　妻を信じて全部まかせてあったから・・）。

Ｘ氏曰く、「何でや？　遊ぶじゃなし浮気をするじゃなし、長いこと真面目に女房子供のために一所懸命働いてきた俺が、何でこんな目に遭うんや？！　確かに仕事、仕事で家を顧みなかったと言われたら、そうかもしれんけれど、それだって世間の夫並みだったと思う。ほんまに何で俺がこんな目に遭うのか全然わからん・・」

しょげ返って落ち込んだり、カーッと腹を立ててお酒をかっ食らったり（無理もないよね）、それはそれは大変な年末年始だったらしいＸ氏でした。



夫婦の内実は当人たちにしかわからないし、一方のＸ氏の話だけでは、到底ほんとのところは判断できません。でもまあ、長いことかかって最後に夫婦がそうなってしまったのは、やっぱり双方五分五分に責任があるんじゃないかなあ、と思います。

電話してきたＸ氏に私が言ったこと：「何十年もかかって築いたと信じていたものを一挙に失うのはほんとに悔しいと思うけど、もう奥さんの気持がそこまで離れたら、しゃーない。財産を半分くれてやって、そんな女房・娘とはスパッと別れて、もう一回新しく出直し！　自分の人生やり直しや！　他にエエ女はなんぼでもおるで・・」

でもＸ氏にしてみれば、当然ながら、なんとも腹が収まらない。「自分が汗水たらして長年稼いだ財産を、定年になった途端に勝手に出て行った女房になんで半分やらんならん」「おまけにワシの年金まで半分アイツに持っていかれるように法律が変るんやて！　あんまりやろ！　アイツ、その法律改正を待って離婚するつもりらしい！」

私：「Ｙ子さんも計算高いイヤな人やなあ・・。でもちょっと早まったね。そんなに近々に法律改正があるのを知っているのなら、もうちょっと辛抱して待っとったらよかったね。私なら黙って法律改正実施まで待ってから離婚決行や！　ま、それは冗談やけど・・。しゃあないなー。結局、夫婦の財産は奥さんが専業主婦であっても、夫婦二人で築いたものやから・・。ダンナの年金も同じように考えたら、離婚の時に分けるのも仕方ないかもね・・・。だからもうお金のことはゴジャゴジャ思わんと、その道のプロに任せて、潔く、やるもんはやり！　それよりこれからの自分の生活と健康とが大事やで、ウンヌンカンヌン・・・」



と、まあこう言ってＸ氏には引導を渡したものの、実はＹ子さんのやり方には私自身、怒り心頭なのです。以前、「酔桃亭１８」で、似たような事を、新聞で読んだ話として書いたことがありますが、実際身近にこんなことが起こるなんて思ってもみませんでした。「ひどい！　やり方が汚い！」と非難したあの話の女房など、今思うと、まだうんと可愛く行儀がよかった！！　彼女は、少なくとも退職の日の夫を玄関で三つ指ついて迎えて、「長らくお世話になりましたが今日限りで・・」と、きちんと挨拶して出て行ったとか。せめて、それが長年夫婦であったものの最低の仁義だと、私は思うけどね。

それを、Ｙ子さんのやり方は許せん！　なんぼ嫌いになった亭主でも、置手紙のひとつも置かずに出奔して亭主をオロオロ心配させた挙句、何が「弁護士に」や！　人生の黄昏に、女房から思いもよらぬ三下り半を突きつけられるという「晴天の霹靂」に出会うさえ可哀想なのに、その前に数週間も女房をウロウロ探し歩くようなことをさせるのは、あんまりやんか！　なんやかんや言うても今まで結構エエ暮らししてきたんと違うんかい？　たとえどんなにひどい亭主であったにしろ、そこまで根性悪いやり方はないやろ！　娘までグルになって、なんてことや！　わけもわからず、心配してあちこち尋ねまわっている夫、父親が可哀想や、哀れやという気がチラとでも起こらんのか！！　タンカ切ってもいいから、ちゃんと話をして、引導を渡してから出て行かんか！　サヨナラの置手紙のひとつも書いて行かんか！　Ｙ子出てこーい、娘も出てこーい！（どんどん人生幸朗さんみたいになってきます！）

あーあ、やっぱり世も末かなあ・・。

（実際、この「離婚した妻が夫の年金を半分もらえる」という年金改革案に基づく法改正とその実施を首を長くして待っている「離婚待機組」の熟年女房がゴマンといるという話も聞きましたが・・ほんまかなあ？　離婚はしゃーないと思うけど、そのやり方、飛び出し方、追い出し方に仁義は要るよね！　Ｙ子さんみたいだと、たいして関係のない私にまで罵倒されて、今までの良い評判も地に落ちてコンコロリンよ！　その証拠に、今、Ｘ氏の身辺に同情が集まって応援団的なものが結成されて、今後の夫婦バトルにそなえる態勢にはいった、という噂が聞こえてきています・・・なんともはや・・。）

それにしても、人生は何という陥穽に満ち満ちたものかと、酔ったＸ氏の切実な嘆きを聞きながら、つくづく思いました。私もそんな穴に落っこちんように気をつけんといかん。