寒い季節にも半袖セ−タ−を着ている女性が目立つ、という記事が新聞に出ていた。２、３年前から冬でも、ノ−スリ−ブや半袖が大流行である。車内や室内に暖房設備が行き届いているというのと、女らしさの表現であるようだ。

「２０年前に冬の半袖セ−タ−を提案したら笑われたでしょうね」と、アパレルメ−カ−の人の話が出ていたが、私は、２０歳の時、つまり今から３４年前に、銀座のすずらん通りのお店で、ジョ−ゼットの半袖ワンピ−スで、ヨ−ク（胸の上）と袖が毛糸になっている物を買ってもらっている。やはり、室内は暖房が効いているから、というお店の人の話だった。母が気に入って選んだのだが、随分先見の明があったものだ。

私は、昔からアンサンブルが大好きで、セ−タ−とカ−ディガンの組み合わせをよく買う。但し、必ず、長袖と長袖の組み合わせでなければならない。と言うか、ならなかった、と過去形でいうことにしよう。



２歳の頃、台所で遊んでいた私は、七輪にかけられていたやかんの熱湯を頭からかぶり、大やけどをした。母は自分の不始末で娘に火傷を負わせてしまったと、私を抱いて井戸に入って死のうとしたところを祖母に止められた、と聞いている。どこまでほんとの話かは知らないが。

その時の傷が、左肘に残っている。だから、夏になって半袖を着るのが嫌だった。腕組みをして隠していたことを覚えている。

先輩の女性で、美人なのに、顔にやけどのある方がいらした。彼女から「腕なんかいいわよ。私は顔だもの」と、慰められたこともあった。植皮の話もあったが、成長するにつれ傷跡が伸びるので、大人になってから、と言われ、大人になってからは、もうその気がなくなっていた。



年を重ね、今更隠すことはしなくなったが、長袖同士のアンサンブルしか買わない習慣は、ずっと続いていた。ところがこの流行で、そんな組み合わせは先ず無くなった。

この夏の終わり、近所のお店で、可愛い刺繍の秋物のアンサンブルを見つけた。中を見ると、半袖どころか、ノ−スリ−ブ。いつもだとすぐやめるところだけれど、友達の勧めで試着することにした。案外腕の線も綺麗に見えるくりになっている。よし、買った！

以来、そのアンサンブルが気に入って、さんざん着ている。時には、カ−ディガンを脱いで腕を出すことも。長袖にこだわっていた私が、脱皮した様である。