昔から手仕事が好きだ。刺繍、刺し子、パッチワ−ク、洋裁、編み物。今まで我流を含め、いろんなものに手をつけて来た。中でも編み物が好きで、ブランクがあっても、結局また始めることになる。

３０年以上前に編んだベストを、アメリカ人の伯父がぼろぼろになっても愛用していると聞いて、前回来日した折に、新しいのを編んでプレゼントした。

母も先日、大昔にあげたのを着ていたし、息子達の小さい頃は、編みこみのセ−タ−を着せたりしていたものだ。父の還暦、義母のお誕生日など、随分いろんな人にプレゼントをしてきた。残念ながら、娘時分に「相手」が居なかったので、縁戚関係ばっかりだけど。

編み出すと夢中になって、夜も日も明けず、編み続ける。夜通しホットカ−ペットに座り続け、低温やけどをしたことさえあった。朝起きてみると、眼の中が真っ赤っかなんてことも度々。充血なんてものじゃなく、赤インクを流したようになっている。毛細血管が切れるのだ。でも、３日もすれば自然治癒することを知っているので、平気。



暫く遠ざかっていたが、去年、友達のＭさんに誘われ、編み物のお仲間に入れて頂いた。Ｍさんの御自宅に、彼女の同級生である先生が来て下さるのだ。

好きな柄や形を言うと、身体に合ったサイズに製図をして下さり、それに添って編んでいけば、希望通りのものが出来上がる次第。だって、みんな、身頃と袖を編むだけで、難しいとか面倒な個所、例えば、肩の引き返し（斜めになる所）とか、襟とか、つなぎとか、ぜ〜んぶ先生にお任せなんだから。

私が肩の編み方を質問したら、「ここを自分で編もうとした人は、貴女が初めてよ」なんて。「生徒はデザイナ−、先生は縫い子（編み子？）さん」と、私は呼んでいる。

Ｍさんは青い毛糸で編んでいたが、襟の分の毛糸が足りなくなり、その部分だけ黒の毛糸で先生に編んで頂くことになった。出来上がって来たのを試着すると、襟が高くて、あごに触るのが気になると言う。

じゃぁ、と先生はするするとほどいて、編み直しをされた。なかなかお気に召さず、形を変えたりして、繰り返すこと５、６回。時々自宅に持ち帰られ、先生の宿題となった。でも先生は全然気にせず、何度でもいいわよ、と。そして、最後には、花マルの宿題が出来上がった。



ところが何回かのお稽古の後、Ｍさんがすまなさそうな顔で、「先生、青い毛糸が出てきたんです」（！）「同じ色の方がいいのね」「できたら〜」と、言うわけで、先生はまたまたほどいて、新たに編み直しをなさったのだった！敬服！

生徒は今３人。３回に１回、お茶菓子を持って行くのが条件（有り合わせでも良し）で、お茶の接待はＭさんがして下さる。先生へのお礼は１回○○円。申し訳ないような値段である。家で編んでいて質問があれば、電話やＦＡＸで答えて下さるし、その分も、「宿題」の分も無料！

昨年暮れ、お礼の意味で、みんなでフランス料理の会食をした。先生はそれすらご馳走になるとは思われなかったようで、恐縮なさっていたほど。

単なる主婦の趣味が昂じて教えている、というような先生ではない。高名な編み物の先生の事務所で、スタッフとして働いていた方である。自分のだけだと同じようなものばかりになるけれど、教えていると、それぞれの趣味で、いろんなのが編めて楽しい、と。

次はお嫁ちゃんのを編んであげる約束をしている。こんなに立派で親切な先生についているので、どんな難しいのでも編める筈、と言っておいたら、「こんなのがいいなぁ」というのがあるそうだ。最後の仕上げさえ先生にして頂いたら、誰からも褒められるようなのが出来上がるだろう。難しい個所は、自分用ので練習しなきゃね。