この３連休、雲１つない青空が広がり、絶好の行楽日和だった。我々夫婦、そして大阪からやってきた義妹と３人は、友人の信州の別荘で、ハイキングを楽しみ、綺麗な空気を満喫した……筈だった！

連休の初日に信州で用ができた。日帰りでも良かったが、前々から、別荘を貸してあげると言われていたので、この際、利用させて頂くことにした。「別荘なんかじゃない、雨露を凌げるだけですよ」と断り書きがあったが。別荘大好きの義妹にも声をかけ、当日夕方、信州のある駅まで電車でやってきた彼女と待ち合わせ、車で、初めての別荘に向かったのである。

日中、晴天にも拘らず、空気はひんやりとしていた。日が暮れてくると、車の中に居てさえも、急激に冷え込んで来ているのが判った。道路地図でさんざん確認しておいたので、別荘地のある湖付近までは、ちゃんと辿り着いた。案内板があったので、車を停めて、友人から送られたＦＡＸの地図としっかりと照らし合わせ、もうすぐ別荘地に入るところまで来ていることも判った。

暫く行くと、「西××別荘地案内図」という看板が現れた。また停車。車のライトで照らして、友人の別荘の番号＊＊番を探す。判り難い案内板で、現在地の印が、どこを指すのかよく判らない。＊＊番を発見。ＦＡＸと照合すると、向きが違うような気がするが、＊＊番は確かに端っこにあり、多分これだろうと、林の中の道を右折し、また左折して、端まで行く。＊＊番の土地に到着。……あれっ？家が無い！



単なる真っ暗な林である。でも、ようく見ると、奥の方に家が建っていた。敷地が広いので、道路の際になど建てていないのだ。手前にロ―プが張ってあるので、その前に車を停める。しかし、○○家の表示は無い。玄関も家の横にあるらしく、車のライトが届かない。懐中電灯を車に積んでいるのを思い出し、取り出す。電池が切れていた！「電話をかけて聞いてみるわ」と義妹の携帯を借りる（私のはＰＨＳで効かない）。……なんとこれも電池切れ！

しんしんと冷える中、ごそごそしていると、後からやって来た車が停まり、「どうしたんですか？！」。通りがかりの人が、親切に聞いてくださったのかと思ったが、ぶすっとされている（この辺りは、私は車中に居てよく判らなかったが、後からの夫の話）。私が車から降りて、「＊＊番の別荘に来たんですが…。」「＊＊番はうちですが」。はぁ？？？ＦＡＸを見せる。「ここはウェストの＊＊番なんです。これは、イ−ストの＊＊番ですね」。……そんなの聞いてないよー！でもそう言えば、さっきの別荘地の看板に、「西」の文字が！

自分の家の前で、見知らぬ３人の男女がごそごそしていては、泥棒と勘違いするのも無理は無い。さぞかし驚かれたことだろう。それにしても、電気がついている家はあったものの、外に人など１人も居なかったのに、選りにも選って、同じ番号の主が現れるとは、幸運なのか、不運なのか？！　その方に、イ−ストの近くの池と、ＦＡＸに書かれていた畑を教えて頂き、また暗闇の林の中を走り出す。



真っ暗なので、池も何も判らず、困って停車した所で、偶然目を凝らすと、左に畑らしきものが見える。「これ畑よね？！」「畑だ、畑だ！」「じゃ、このＦＡＸの地図で判る！」。地図通りに走らせ、イ−スト＊＊番を見つける。「あったぁ！○○さんの名前が書いてある！」……やっと辿り着いた！

夫が鍵を持って開けに行った。だが、暫く経って、首を振って戻って来た。鍵が開かないという。私や義妹もやってみる。上下に鍵があって、夫の言う通り、下の鍵は簡単に開くが、上の鍵は、鍵穴には入るが、びくともしない。コツがあるのかと、ドアを上げたり下げたり、押したり引いたり、２つある鍵のうち、１つを両方に入れてみたりと、ありとあらゆる手段を用いてみるが、どうにもならない。こんな筈は無い。後１回試してみれば、何だったんだろうと思うほど簡単に開いたりして…、と最後に期待をかけてやってみる。……無駄だった。

夜９時半。歯ががちがち鳴るほど、冷え込んでいる。先週も、夜は暖炉に薪をくべた、と聞いている。これ以上無理だ。諦めよう。開けるコツとか、鍵を付け替えていないかとか、とにかく持ち主に公衆電話から聞いてみよう。近くに泊まる所も探さなきゃ。

別荘地から抜け出て、見つけたペンションで聞いてみる。満室！　３連休だものね。元来た道をどんどん戻る。他にはホテルや旅館など全く見つからない。道の蔭に、やっと電話ボックスを見つける。ボックスの中では、大きな蛾が１匹、天井にへばりついてばたばた暴れていた。鱗粉が降りかかる。悲惨！



友人の連絡先として考えられる４箇所全部にかけたが、どれも留守電。虚しい！　メッセ−ジを入れておく。これ以上、連絡の方法は無い。泊る所も無さそうだし、いっそのこと、このまま東京へ帰ろうと決めた。

５時半起きしたその日、自宅到着は深夜１時。運転は、往きが渋滞だったので、往復で約１２時間。１人で運転したが、特に疲れは感じなかった。夕食も食べなかったので、深夜の宴会。朝４時まで。

起床後、友人に電話をかける。「今、どちらですか？！」といきなり。留守電を聞いて、朝から、別荘やら私のＰＨＳに電話をかけても、どれにも繋がらず、心配して下さっていたそうだ。事情を詳しく話すと、相手もびっくり。合鍵を作ったときに別荘へ持って行って、全て開くことを確認済みとか。「これだけお天気が良いと、きっと、今日は、湖はキラキラ輝いてるでしょうねぇ」「山も綺麗に見えてるでしょうね」。そして、「雨露も凌げませんでしたね」と持ち主。申し訳ない、近いうちに別荘で集まる設定をしましょうと、申し出て下さったのだった。

１番気の毒だったのは義妹だったなぁ。そのために出てきたんだから。厚意から貸して下さった持ち主、厚意から義妹を一緒に連れて行ってあげようとした私。厚意＋厚意＝仇（あだ）ということもあるのねぇ。誰も悪くないのに、気を遣い合うことになってしまった。真相はいまだ不明。