請勿詰難　請勿返品
雅虎拍売城
公元2009年３月

額縁特集

漢画像石「荊軻刺秦王」拓本
画面　横55cm　縦88cm
初値1500元（２万円）　額装３万6460円

「風蕭蕭として易水寒し。壮士ひとたび去って復た還らず」――秦の始皇帝の暗殺を試みて失敗したテロリスト荊軻の取材旅行で、山東省西南の片田舎・嘉祥県へ向かったのは、03年の１月末か２月初めのことである。「易水寒し」の季節を選んだので、仕方ないことであったが、小雪が舞い、深い霧が降りて、視界は数メートル。道路のここかしこに、運転を誤った車が横転していた。われわれのバスも、何度か人を轢き殺しそうになった。

嘉祥県には、２世紀半ばの後漢時代、武姓の豪族が蟠踞していた。族長というべき人物は武梁といい、４番目の弟・武開明は呉郡（蘇州一帯）太守の次官に昇り、その長男・武班は敦煌郡の太守次官、次男・武栄は首都洛陽の治安次官を務め、俸給が千石の高官が数人輩出した。

当時、地方長官や王侯付きの大臣の俸給が二千石だった。このクラスは、不逮捕特権を持ち、「二千石」はスーパー高官の代名詞でもあった。武氏の千石というのは、田舎出身の一族としては、位を極めたといえる。

その一族の墓所が「武氏祠」で、１対の門と獅子像、５つの石碑と４つの石室があり、画像を浮き彫りにした43の石壁で構成されている。画像中、「漢代最高水準の美術品のひとつ」とされるのが、「荊軻刺秦王」を描いた、始皇帝暗殺未遂の場面である。それを見に行ったのだ。

荊軻刺秦王政（後の始皇帝）

左側、怒髪天を衝いて、烏帽子のようなっているのが荊軻。
羽交い締めにされながら、匕首を投げつけている。
柱の右側に秦王政。一太刀目で斬られた袖が宙を舞う。
足元に転がっているのは、匕首を隠していた箱だろう

武氏祠の存在は、11世紀の北宋時代にはすでに知られていた。画像石は、何百年にもわたって、好事家の拓本対象となったらしく、紙を通して染みだした墨が付着して、どれも真っ黒になっていた。現在は、国宝級の全国重点文物保護単位に指定されているため、拓本を刷りとることは禁止されている。

禁止、と聞くと欲しくなるのが、人情である。そんな心根を見透かしたように、「どうしても欲しいなら、2000元（３万円）でお分けしますが」と、同行して案内してくれた嘉祥県文物局の責任者がささやいた。VIP贈呈用か、小遣い銭稼ぎ用かしらないが、特別製の拓本があるらしい。

このときは、「古玩を漁りにきたわけではない。取材にきたのだ」という記者の見栄が勝って、即座に断った。それから６年。記者の見栄もくそもなくなったのか、そのときのことを突然思い出し、あれが手に入らないだろうか、と。

最近、額装に凝っている。折々に手に入れた拓本や、チベットのタンカを引っ張り出しては、額縁屋に持ち込んでいる。これまでも、額装にはずいぶんお金をかけてきた。しかし、店をユザワヤからビバホームに替えてから、額縁の種類やマットの色を選ぶのが楽しくてしかたがない。ユザワヤでは、素人らしい女店員がもたもた対応するのに比べ、ビバホームは、専門知識を持った職人風の中年男２人が、丁寧に相談を聞いてくれ、的確な助言をしてくれるからだ。

いろいろなものを持ち込み、手元にある作品は、ほぼ全部額装をすませた。残っているのは、数百円からせいぜい数千円の安物で、しかし、どれもばかでかく、額装あるいは表装に20万円もかかるという。費用対効果が悪すぎて、いずれも断念した……。「荊軻刺秦王」、あれがあれば、どんなすてきな額ができあがるだろう――。すぐに魏さんに電話した。

それから３週間後、EMS便が届いた。中身は、お茶の大紅袍と「荊軻刺秦王」を含む武氏祠西石室第４石全体のオリジナル拓本（写真下）。どんなルートで入手したのか、某文物局の茶封筒に入り、表に「精品」の書き込み。値段は1500元（約２万円）だったという。すぐにビバホームに持ち込み、額装したのが、冒頭の写真である。



全体図　横70cm　縦97cm

「荊軻刺秦王」を含む画像石は、上中下３段のレリーフから成っていて、それぞれ別々のエピソードを物語っている。いずれも中国史上に有名な故事・神話で、「荊軻刺秦王」は中段を占めている。

上段は、春秋時代、斉の策士・管仲が、主君・公子糾の弟で政敵でもあった公子小白を狙撃する場面を描く。小白は後に即位して、斉の桓公となり、かつて自分を襲った管仲を迷わず宰相に抜擢、その力を借りて、春秋五覇に数えられるほどの有力君主となった。

下段は、女★（じょか・★＝女＋渦のつくり）と伏義（ふくぎ）という中国の建国神話の主人公を描く。ともに人身蛇尾、夫婦とされるが、兄妹ともいう。物語絵の下に、波模様（水波曲線紋）と菱形（双菱紋）、さらに凹面（連弧紋）の装飾がある。額装にあたっては、菱形より上の部分を生かした。

上段：管仲射小白（後の斉桓公）

中央、弓を携えているのが、管仲。
その左、矢が膝に刺さって倒れているのが、小白。
従者が傘で二の矢を防ごうとしている。
管仲の後方の２人は大袍に忽を持つ。
管仲が擁立する公子糾らであろう



下段：女★と伏義

お互いの蛇尾を絡ませて、交尾しているように見える。
左の女★は、「規」（コンパス）を持ち、
右の伏義は「矩」（曲尺）を持っている。
周りを男女の仙人が飛び回っている

実はいま、額装しようかしまいかと迷っている素材がある。武氏祠の売店で買ってきた図録、解説書が何冊かあり、その１冊に、「荊軻刺秦王」を描いた切手がついていた。アルミらしい金属製と普通の紙のものがあり、いずれも額面は150分（1.5元＝約20円）。ちなみに、はがき郵便料金は、中国国内が60分（約８円）、航空便で日本に出す場合は、450分（約60円）。そんなチープな紙っ切れに、額装というのもなあ……。画面上で、試してみました（下）。

西蔵経絡図
画面　横40cm　縦59cm
初値1000円→４入札→落札4600円　送料550円
額装１万8734円

近ごろ、ヤフオクを覗くのがめっきり少なくなった。それでも、あまりの無聊にチェックすることがある。そして、どーでもいいものについつい手を出し、競り合ったりする。このチベット医学のチャクラ図というか、ツボの絵というか、も、そんな経緯から落とすことになった。

届いた布きれは、薄ぎたなく汚れていて、彩色も褪せて、いかにもチベットの山奥からからやってきましたといった貧乏たらしい風情。これじゃどーにもならんなー、と思案した末、馬子にも衣装かも知れないと、ビバホームに持ち込んだ。マットの色を取っ替え引き替えしながら、担当者と協議、額装なったのが、上掲のそれである。

これがなかなかいいのである。額の中に入ったとたん、みすぼらしさはどこへやら、くすんだ色はかえって古色ゆかしく見え、レオナルド・ダビンチの「ウィトゥルウィウス的人体図」を思わせる格調さえ漂うはないか。額装の深みにもう一段はまることになった１点である。

　

左：全体図　横44cm　縦61.5cm。 額装以前は、ぼろ切れのよう
右：レオナルド・ダビンチ「ウィトゥルウィウス的人体図」

古玩城の闇鍋 千円木偶の世界 西蔵釈釈尊面具 幅16.8cm　高さ26.5cm 初値4200円→落札　送料1000円 額縁で次埋まってゆく壁面に、気になる空間が残って、そこに掛けるのに適当なものはないかと探しているところに、現れたのがこれ。ま、いっかーと応札したが、結論をいうと、気になる空間を満たすほどの存在感はなかった。チベットの仮面劇に使うとのことだが、目に穴が開いてないので、面としては用をなさず、そのままお蔵入り。 変な水滴 長さ15cm　幅７cm　高さ5.7cm 初値2000円→落札　送料600円 出品者自ら、「蔵から出てきた変わった器」と称していた。形を見る限り、水滴のようではあるが、それにしてもコンドーム形というのは……。申し訳のように、亀甲模様を施してあるが、フィットしていると思えない。 現物が届いて、一層？？？。水を注入することはできるが、入った水が出てこないのだ。中でちゃぷちゃぷ音はしているのだが。内部はどんな構造になっているのだろう。水を排出できないとすると、蒸発を待つことになるのか。いずれにしろ、水滴としては用をなさず、分類と置き場所に困っている。