子供の頃から、電車に乗ったら運転席すぐ後ろの窓にへばりついて、運転手さんの動作や眼前に開けていく景色を眺めるのが好きでした。（最近は運転席と車両が隔離されている構造が多くなってつまらないです）。

高校生の頃だったか、ある私鉄電車の最前部に乗って、ガラス越しに運転手さんの運転操作を興味津々で見ていました。でも、その運転手さんはなんだか様子が変で、一人で時々何か大声で言っています。「ど、どないしはったんやろ！　これはヤバイかも！　すぐに２両目へ移ろう！」と、そそくさと逃げ出して後ろの車両へ行きました。

ところが、別の日に見た別の運転手さんもまた同じように一人でブツブツと声を出しています。「何を言ってはるのやろ？」。不思議に思いつつ駅に降りると、ホームの駅員さんまで、列車を見送った後、列車の後部を指差してなんか叫んでいるではありませんか。「ナントカカントカよ〜〜し！」とか「ナントカ異常な〜し」と言ってるみたいに聞こえました。

ああ、そうだったのか。運転手さんにも車掌さんにも駅員さんにも安全確認のためにああいうことをするように指導がなされたのだなあ、と納得。「でも、なんだか、あまりにマニュアル化して変だなあ・・ああいう確認動作をやらされるのって嫌だろうなあ」とも思っていました。

近頃、スーパーで買い物をしても、レジで同じようなことをしているのを見ます。お釣りを渡す時に店員さんがレジスターのおつり表示と手に持っている札を交互に指差して「5千円、5千円、ハイ5千650円のおつりでございます」などと・・・。なるほど、間違いを防ぐ手立てではあるかもしれないけれど、どうも不自然でおかしいなあ、とずっと思っていました、去年あたりまでは・・・。

ところが、ついに我が家でも、この馬鹿にしてきた「指差し確認」を導入せざるを得ない事態に立ち至ったのですヨ。な〜んてこったろね！



最近、家族全員（私たち夫婦と母）に予期せぬ異変が起こってきたもんで・・・。とにかくモノをよく失くす、しまった場所が思い出せない、置いた筈の所に入ってない、置き場所を書いたメモまで失くす・・・モノを探すのに費やす時間が馬鹿にならないほどになってきました・・・。

「母や私はともかく、亭主は若い頃は手帳など一切要らなかったほど記憶力がよかったのに・・・今は見る影もない衰えようや。いかに海外と日本を頻繁に往復する超多忙、千手観音状態にあるとはいえ、なんとかならんかいな、このひどさ？」と考えていた時に思い出したのが、この鉄道の「指差し確認」です。（正式には何というのか知りません。電車の運転もできるという、わが敬愛する汀里宗匠ならご存知かも・・・）。

何か物をしまう時には、漫然と無意識にやらないで、必ず声に出して自分にも聞かせ人にも聞いてもらい、指差しもして、しっかりと記憶にインプットする。

試しに、しばらくやってみました。なんと、これが意外に効果があるのです。（今まで馬鹿にして悪うございました！）。

以来、数ヶ月、我が家では今のところモノ探しで大騒動になったことはありません。同じ症状のあるご家庭では、是非一度お試しあれ。

でもね、なかなかに悲惨なものがありますよ。中高年三人が、
「保険証戻しました〜！」
「オッケー！」
「デジカメの保証書は保証書入れに！」
「了解！」
「＊＊銀行のキャッシュカード持ち出しま〜す」
「は〜い！」
などとワァワァ大声で叫びあっているのは・・・・。
ほんまに「滑稽と悲惨は紙一重」なんだなあ、と痛感するこの頃です。