うちの亭主のＴが公務員を退職して、フィリピン、サマール島へ行ってから５ヶ月ほどになりました。サマール島では、今が一年中で一番寒い時期とのことですが、それでもＴシャツ一枚で快適な気候らしいです。（どの辺が寒いのかな？）

Ｔが提案した、「貧困克服策としての循環型トイレ普及事業」（エライご大層なお題目やね！）が、ＪＩＣＡ（国際協力機構）の「草の根技術協力事業」に採択されて、その仕事を現地のＮＧＯの人たちと一緒にやっているのです。つまり、トイレのないスラムに公衆トイレを作って、糞尿からメタンガス（バイオガス）を発生させ、燃料や肥料、そしてウンコ発電などに使うそうです。

暑い中、ご苦労なお仕事のようですが、そこは南国、アジアン暮らし。昼間からサンミゲル・ビールを飲み、夜な夜なココ椰子酒に酔っ払ったり、フィエスタ（お祭り）で、「コラッチャ」という地元のダンスを踊らされて笑いものになったり・・・、きっと楽しくやっているに違いありません。

ところが、つい最近、とんだ「誘拐騒動」がもちあがったそうです。

１月２７日の朝、亭主の携帯に地元のいろんな人から電話が入りました。「今朝の地元ラジオ放送が、『ＪＩＣＡの日本人スタッフが誘拐された』というニュースを流したが、大丈夫か？」と。

ＴはＪＩＣＡのスタッフではないけれど、もしそのニュースが本当なら、もう「トイレ」どころじゃない、ＪＩＣＡから、「危険な事態なのですぐに引き上げよ」という命令が来るだろう、これは大変ということで、同じ町にいる青年海外協力隊の女性に連絡したり、ＪＩＣＡのマニラ事務所に問い合わせたりしたそうです。

ＪＩＣＡマニラ事務所へは、Ｔ以外からも同じ情報が寄せられたそうで、ＪＩＣＡでも一時は大騒ぎになったらしいです。（それでなくてもＪＩＣＡでは、サマール島はまだまだ危険なところとの認識があるらしくて、スタッフでさえ業務以外の私用では立ち入ってはいけない、とされているとか・・）。



ＪＩＣＡで大騒ぎになってしまったので、Ｔはあわてて地元ラジオ局へ話を聞きに駆けつけました。結局、次のようなことだったらしいです。

「今朝、確かに地元の警察署長のインタビューを放送した。少し前から１１人の外国人が誘拐されたという噂があったので、署長がそのような事件は起こっていない、と放送で否定した」と。

な〜んや、それ？　どうやら、この放送が誤って受け取られて、「外国人誘拐＝日本人誘拐＝そしたらあの豚小屋たらバイオガスたら言うてる日本人のおっさんか？」となったのかも・・・。とにかくサマールでは、まだまだ伝言、口コミによる情報伝達が大きなウエイトを占めているという社会だそうだから、伝言ゲームのように少しずつ内容が変わって、最後に、「お前、誘拐されてない？」になって、複数の人からＴのところまで届いたのかもしれません。

ま、どなたに限らず誘拐が事実でなくて結構でした。でも、もし実際に亭主が誘拐されていたらどうしていたかなあ、と考えました。

身代金目当て？　政治目的？　政治目的の誘拐ならもう仕方がない。今の日本政府に何を頼んでも無駄！　前途有為の若者の命でさえ、いとも簡単に切り捨てしまうのだから・・・。ましていわんや、前途などもうほとんどない退職した無名のオッサンの命は！　第一、「政府に頼んで俺の命乞いをするようなことは決してしてくれるな」と常々Ｔから言われているし、それはしません。潔くあきらめて信念に殉じてくだされ。

身代金目当ての誘拐？　これが困るのよね！　息子たちの誘拐だったら、私の退職金（もうほとんど残ってないけど）をはたき、親戚・友人に借り回って、身体を売ってでも（誰が買うか！？　ま、ま、そうおっしゃらず）、なんとかお金を調達して支払うけれどネ・・・。（私なんか息子がらみの「振り込め詐欺」には一発で引っ掛かるタイプです！）

亭主ね〜？　これは、お金目当てで誘拐してもらっても困るのよね。彼はもう十二分に好き勝手して生きて６０年になんなんとするわけだし・・・私の老後の生活資金も要るしなあ・・・。

私、誘拐犯人との交渉で言います。「Ｗｅｌｌ，身代金の値段ですけどネ、ｙｏｕ　ｋｎｏｗ，高齢者割引で半額になりません？　２０年ローンで払うとか？　え、あかんの？　ＯＫ，そしたらもうよろし、そこらへほかしといて頂戴！　サマールの土になれたらきっと彼も本望だと思いますワ！」



海岸に建てたステージで、夕日を見ながら
ビールを飲んでいるＴと仲間たち