友人Ｘ氏の妻Ｙ子さんが、一片の書置きも一言の挨拶もなしに、青天の霹靂の如く家を出たのは、一昨年の秋でした。この顛末に怒りクルッた私は、「おとろしや女房どの」を書きました。そのＸ氏から最近電話をもらいました。ついにＹ子さんとの離婚が成立したとのこと。「よかった！やっとスッキリと暮らせるようになったね！」と、心から言いました。

離婚調停中の、財産をめぐる激しい争いのことは、私の耳にも伝わってきていましたが、結局、Ｘ氏とＹ子さんは、全財産を二分して、２つの家に別れて住むことになったとのことでした。（企業戦士として４０数年間働き詰めだったＸ氏は、立派な家を２軒建てていたのです）。
Ｘ氏が取ることになった家は、下町の良い気風が残っているところにあり、近所の人たちもＸ氏が戻って住むことを大歓迎。ちょこちょこ覗きにきてくれるし、おかずを持ってきてくれたり、すごく親切だそうです。昔、Ｘ氏が休日に少年野球の世話をした子供たちも、すでにエエおじさんになって近くに住んでいる。彼らも夫婦子供連れで頻繁に訪ねてくれるようになって、また新たな人間関係が広がっているとのことでした。

電話で話したＸ氏は、ヤケ酒をあおって愚痴っていた頃とは別人のように、とてもサバサバして元気そうでした。苦笑しながら次のようにも言ってました。「どうやら、Ｙ子は、俺の渡す給料のかなりの部分を自分の将来のために長い間貯めこんで、それを持って出たみたいやな。（ちなみにＸ氏は聞いて驚くほどの高給取りでしたし、Ｙ子さんもつつましい賢夫人として通っていました！）　でも、その証拠なんか一切ないんや。『給料は全部家計に使いました！　家計簿はつけていません、レシートなどありません！』で、終わりや」

（そうか、証拠が無いか！　どんならんなあ。「真実は天とＹ子さんと知る」やね。それにしても、事実ならひどい話やなあ。離婚の時に「会計監査」かなんか、無いんッスか〜？！　私も明日から、セコセコ家計簿なんかつけるのはやめて、密かに貯金しようかなあ・・。いや、あかん、そんなことしたらあかん。「悪銭身につかず」や！　「天網恢恢疎にして漏らさず」だしね！　ほんま、天のカミサマ、そこんとこ、きっちりと、よろしう頼みまっせ！　ちゃんと「落とし前」つけたってくださいや！・・・　オッと、どうも私のカミサマは、ヤクザのカミサマみたいでガラが悪いよね。でもキリスト教のカミサマも「復讐するは我にあり」とおっしゃっているもんね。人間は復讐したらあかんのですヨ！）



Ｘ氏：「でもエエねん、もう、金のことは・・・。Ｙ子も身体弱いしな・・・これからイロイロ大変やからな・・・。」（な、なんとホトケのように寛大な心！　噂では、Ｙ子さんは現在、娘と共に別の土地に豪邸を新築中で、もらった家はさっさと売りに出してるっちゅうのに・・・。アホやで〜、Ｘさん！　人のエエのもほどほどに！　もし、うちの息子たちが将来そんな目に遭ったりしたら、私は絶対に許さへんで〜！　カミサマになんか任せておかれへん。生き霊となり、死霊となっても、そんな不正を糾さずにおくものか〜！）

Ｘ氏：「そんなことより、この頃、ごっつう楽しく暮らせるようになってなあ。以前からの趣味やった旅行とか山歩きには誰に気兼ねもなくいつでも自由に行けるようになったしな、最高やで。今、すごく凝っている楽しいことがあるんや。何やと思う？」　私が思いつくことを四つ、五つ挙げましたが全部ハズレ。Ｘ氏が大好きになったこと、それは「家事」なんですって！　確かにとてもマメな人ではありました。苦学生だった学生時代に自炊する癖もついていました。それで、今は、毎日、頭を使い、いろんな工夫を凝らして家事や料理をすることが、とても面白いそうです。

ほんとによかったね、Ｘさん！　心からそう思います。スカッと離婚して第二の人生に踏み出せてよかった。これから思いっきり自分の好きなように生きられる。まだ６０代や、もっともっと、ええ女にいっぱい出会えるよ！

Ｙ子さんにとっても離婚できて、結局はよかったのでしょう。夫婦の内実は、当事者にしか絶対にわからないし、実際問題として、とことん嫌になってしまった相手と死ぬまで一緒に暮らすことはできないからネ・・・。ただ、もう少しフェアで賢いやり方をすべきだった、と思いますよ。自分自身のためにもね。今回のことで、Ｙ子さんの失ったものは限りなく大きいことに気づいているのかな？　

それにしても、「夫婦」とか「結婚」って、一体何なのでしょうね。改めて考えさせられた事件でした。世の中、下見りゃキリがなくて、配偶者に生命保険をかけて殺す人間もたくさんいるのだから、それに比べればＸ氏の出遭った災難も、この程度でよかったか、とも言えるわけで・・・。夫婦といえども油断のならんことです。

ま、とにかく、近いうちに友人たちが集まって、「Ｘの前途を祝う会」をやる予定です。私も万難を排して駆けつけて、みんなで楽しく飲みます。