９月末、私は近くのＫ病院で右眼レンズの取替え手術をしました。数年前から早くも年寄りくさく白内障になっちゃったからです。日常生活には特に支障がなかったのですが、運転免許の更新が迫っていたので思い切って手術に踏み切りました。３泊４日の入院中、７０代８０代のじいちゃん、ばあちゃん患者たちの中では最年少、まるでギャルでしたね。たぶん７期でも私がこの手術のトップランナーでしょう。（そんなこと自慢になるか！まあね）

手術前日の朝に入院。入院なんて二男の出産以来です。諸検査も終えた夕刻、早い夕食を食べ終わったものの、病室に一人ポツンといると、だんだん不安になってきました。（亭主は手術にギリギリ間に合うように一時帰国する予定でした。私が無理やり入れた日程だったので仕方ありません）

手術についての詳細な説明は聞かせてもらって納得しています。比較的簡単な手術だとも・・・。でも、どうにもコワイ！　なんたって目玉にメスを入れるんだから・・・。手術の２週間ほど前に、大きな眼球の模型を使って手術方法の説明をしてくれた若い眼科の先生が、「それではこれで終わります！」と、パカッと開けていた眼球模型を片付けようとした途端、机上にそれを取り落とし、何かがコロコロと転がり出ました。「あ、しまった！水晶体が落ちた！」・・・こんな縁起でもないハプニングまで意味ありげに思い出されて、「まれには手術中の大出血で失明する人もあるらしいなあ」等々、ますます不安な気持ちが募ります。

と、その時、ドアにノックの音。な、なんと、われらがＤｒ．Ｂｌａｃｋ Jack、Ｋ氏が来てくれたではありませんか。

確かにずっと前、手術日が決まった頃、お知らせしてはいましたが、超多忙な病理部長のＫ先生が、そんなことを覚えていてくれるとは夢にも思っていませんでした。白衣を着てＩＤカードを首からぶら下げた堂々たる体躯のＤｒ．ＢＪです。

「わあ、白衣を着たら立派やね〜！」（と思わず言ってしまいました）「いや、白衣を脱いだら、ただのアヤシイおっさんやから、病棟内をウロつく時はこれを着ないと・・・」と、Ｋ氏。（確かに！）

で、還暦前年にしてすでに、あちこちにガタのきたお互いの身体の話（なんとも色気ないなあ！愛を語らず、降圧剤、コレステロール、心臓を語るのも・・）から、家族の近況、ＢＪ夫人の超本格的な陶芸修行の話、格山や山口組メンバーの話、病院に新部門を立ち上げるのはとても面白いという話、たまたま二人とも中年になってから取った二輪免許の話（ＢＪ・大型、酔桃・中型）などで大いに盛り上がりました。（と言っても、私がバ〜ッとしゃべって、Ｄｒ．ＢＪはいつものように恥ずかしげに訥々と話すのですが・・）

こうやって、Ｄｒ．ＢＪと話しているうちに、私は、なぜだか、突然、高３の夏休みのことを思い出していました。その夏、私はロクに勉強もせずにプラプラと演劇部の練習に通ったりしていたのですが、そんなある日、誰もいないはずの暑い教室にただ一人ポツンとＫ君がいるではありませんか？　机の上には数学だかの問題集やノートがありました。「へえ、こんな暑いところで毎日勉強してるの？」「いや、風が通って意外に涼しいし、集中できるから・・」と、Ｋ君。

そうだった、そうだった、Ｋ君って昔からこんな感じだった・・・寡黙で朴訥で、ちょっと不器用で、意志が強くて、優しい・・・ああ、人間って変わらないんだなあ。

Ｄｒ．ＢＪが病室に入ってきてすぐの頃は、私も一応あらたまって「お忙しいのに、わざわざ来ていただいてド〜モ！」とか言ってたのだけど、すぐに、「いや〜、Ｋ君、あの時はどうやったね、高校時代ひょっとしてあの子が好きやったんと違う？・・・Ｋ君の結婚披露の後の祝賀飲み会で誰がどうしたなあ、こうしたなあ！」になって、まるで気分は高校生でした・・・少なくとも私は。

どのくらい話していたかなあ・・。これで私はすっかり楽しくなっちゃって、さっきまでのポツンとした不安な気持ち、怖い気持ちがパ〜ッと吹き飛びました。Ｄｒ．ＢＪと話したおかげでリラックスできて、手術前夜のその夜も、寝酒なしにもかかわらずグースカ寝られて心身ともに絶好調で手術に臨めました。（肝心の亭主ですが、これは手術開始１時間前に息せき切って飛び込んできたから、まあ良しとするか！）

友達は有難い！　つくづくそう思いました。
手術翌日にも来てくれて、ほんとにありがとね、Ｄｒ．ＢＪ！

追記　ビビッて受けた手術も、何の苦痛もなくあっという間に２０分ほどで終わりました。「妙手回春」という言葉がありますが、Ｋ病院Ｍ先生（とても素敵な女医さん）の「妙手」のおかげで、矯正しても０．２しか見えなかった右眼が、なんと１．５まで見えるようになりました！

なんという明るさ、鮮明さ！　感動して鏡を見て驚きました。「ワッ！誰や？　このシミ、シワいっぱいのおばさんは？！　肌は、もう少しコマシだと思っていたのに・・・」

帰宅後、家中の埃もよく見えるようになって、「この家に主婦はおらんのかいな〜」と、またガックリ。

でも、この暗い世の中、少しは明るく見えるようになったので、とても嬉しいです。