９月２９日、甲子園で阪神タイガースが２年ぶりのリーグ優勝を決めた夜、あちこちで「生粋の阪神ファン」も、「にわか阪神ファン」も共に熱狂しました。大阪人にとって久しぶりに胸のスカッとするいい話でしたね。（私も病室のテレビを片目眼帯でワクワクしながら見ていました）

深夜になってから、案の定、戎橋の３ｍの塀を乗り越えて道頓堀川に飛び込む若者たちも出ました。わざわざ高い塀など作ってくれたら、どうしても乗り越えたくなるのが人情！　むしろほっといたらいいのにね。全裸でも半裸でも好きにして大腸菌ウヨウヨの川に気のすむまで何遍でも飛び込ましたったらいいのと違う？　ま、溺れ死なんように前もって救命ブイを数十個放り込んでおけばいいかも・・・。「朝まで好きに飛び込んどり！」の世界です。

このテの馬鹿は友達にもぎょうさんおりました。早慶戦の終わった夜など、勝っても負けてもシコタマ飲んで、新宿の噴水に飛び込んでは這い上り「紺碧の空」と「都の西北」を唄ってはまた飛び込んで、一晩中騒いでおった友達とか・・（７期の友達ではありません、念のため）。こういうのは馬鹿には違いないけれど、まだ可愛（かい）らし！

ところが、テレビ映像で許せんのを見ました。同じ夜、タクシーを何十人もで取り囲んで、屋根やボンネットに乗ってボコボコにするわ、ドアを蹴ってへこますわ・・・もう、したい放題やってます。彼らは、ほんとの阪神ファンなどではあり得ない。ただの卑怯・意気地なし・調子乗りの暴徒に過ぎません。せっかく人が気分よくしているのに・・・。　「ナンや、こいつら〜！！」とテレビに映る若者たちを見ながら、私は思わず叫んでいました。



と、その時、ひとりのゴッツイおっちゃんが若者達を掻き分け掻き分け、立往生しているタクシーの傍まで来るのがテレビ画面に映りました。そのおっちゃんは周りの若者達に向かって大声で叫びます。「おい、お前ら〜！　こんなことしか、することないんか、他にすることないんか〜！」（そや、ほんまや、おっちゃん、その通りや！心で私も叫びます）

「よっしゃ、お前ら。ワシが代わりに相手したろ！　ワシにかかってこい！　かかってこんか〜！」と言いながら、おっちゃんはここでバッと一気にシャツを脱ぎました。（ヒエ〜ッツ、かっこエエ！）

背中から、両の二の腕、胸にかけて、見事な倶梨迦羅紋紋（くりからもんもん）です。（映像を少しぼかしてあったので、刺青の図柄が何だったのかよく見えませんでした。倶梨迦羅竜王だったのか、昇り龍だったのか、緋牡丹だったのか、よくわかりませんが、とにかく見事な刺青でした）

一瞬ひるんで、息をのむ若者達。おっちゃんの気迫に押されて後ずさりしているようです。おっちゃんは、この若者達を尻目に「オライ、オーライ」と言いながら、立ち往生してボコボコにされたタクシーを車の動いている通りまで誘導して行きました。

素晴らしいおっちゃんでした。伊達に倶梨迦羅紋紋背負ってはらへんなあ・・・と感動しました。普段どんなお仕事してはるのか知らないけれど、少なくとも、このおっちゃんには「窮地にあるものを見捨てて置けない」という「侠気」があるよね。「強さ」とは即ち「弱者への優しさ・想像力・共感」なんだなあ、と痛感。



それにひきかえ、若いモンが情けなかった。さっきまであんなに傍若無人に暴れて「器物損壊」やっとったくせに、入れ墨のおっちゃんに一言どやされたらシュン太郎、何もよう言わんと引っ込んでオシマイかい？！　なっさけない。そんなことならはじめから尻馬に乗って人迷惑な馬鹿騒ぎするんやないで！　バクダッド市街に侵攻してきた米軍戦車の列に、たった一人で決然と抗議して立ち向かっていった若い娘さんの痛々しいまでに潔い姿を見せてやりたいもんだわ。　ほんとに悲しくなるような光景でしたね。（おっちゃんが立ち去った後、また彼らは一から暴れなおしてるんだから・・・）

成人式で暴れたり、ホームレスを襲ったり、衆を頼んで好き勝手、弱い者いじめをすることでしかストレス発散できない、こんな甘ったれた情けない若者を多く育てることになった閉塞社会・・・なんでこんなことになっちゃったのかなあ？と思います。それを作ったわれわれ大人たちの責任も大きいのでしょうね。（見上げた若者、たいした若者も大勢いることが、まだ救いだけれど・・・）

もっとも、イマドキ、国会議員センセーからしてあのテイタラクだからネ、それをいいお手本にして、見苦しく恥ずかしい若者がたくさん出たってシャーナイかもね。残念至極だけど・・・。

あの夜、タクシーを助け出して立ち去った倶梨迦羅紋紋のおっちゃ〜ん、すみませんけど、爪のアカでもわけてやってくださいな、大人にも若者にも。

格山講評 「龍と花」読みました。力作ですね。それに中村医師にまで話が繋がっているのに 一驚しました。 酔桃の文才にも感嘆です。それに　毅君の行動力のすばらしさ。 助さんの大学院レポ−トも面白い。町人的学問というべきか。 ともかく　７天会の記事は読ませます。 葦平は　なぜ　自殺したんだろうか。 無頼派の最期ということか。 やまぐち