ここ何十年かの間にいろんな酔っ払いとつき合ってきましたが、中にはユニークな酒癖の人がいましたよ。お酒がまわるといつも突然立ち上がって、”Now, ladies and gentlemen!” と英語で５分ほどスピーチをするボート部の先輩、酔うと必ずプーシキンの詩を朗誦する女性、飲み始めたらすぐにぶっ倒れて座布団かぶってグウスカ寝ちゃっていつもそのまま置いてけぼりを食う人（S山ではありません）、宴会が盛り上がっててもおかまいなしに一人うつむいて文庫本に読みふけりながら手酌で飲み続ける同僚・・・（なんで宴会に来るのかなあ？）

私の知ってる一番ケッタイな酒癖は、若くてとても可愛い同僚のそれでした。彼女は、体育の教師だったのですが、酔うと必ず「号令をかける」のです。彼女が飲み屋を出てフラフラ歩いていて、たまたまバス停などを通りかかります。そこにはバスを待つ人がたくさん並んでいます。彼女、そういう場所へ来ると必ずシャンと姿勢を正して立ち止まり、大声で、「気をつけ〜ッ！　前にならえ！」と号令をかけずにはおかんのです。急に若い女の人が叫ぶから、バス停に並んでいた人たちは、みなびくっとして、思わず「気をつけ」してしまうオジサンもいるぐらいです。「なおれッ！」「ハイ！　先頭基準、右へならえッ！」。

ここらで、おじさん達もこの若い女の人が酔っ払っていることに気づいて、みんな大笑い。なおも号令をかけ続けようとする彼女を取り押さえるのに、周りの同僚はもう汗だくです。さらに悪いことに、この彼女、「飲み会の最後はウドンを食べんとおさまらん」人で、彼女を終電に乗せる前に、食堂でも屋台のウドン屋でも見つけてとにかくウドンを一杯食べさせないと電車に乗ろうとしないから厄介でした。



ちょっと信じられないような酒癖でしょ。職業病の一種か？　で、翌朝、職場でみんなが彼女にヤイヤイ前夜の号令騒ぎのことを言ってからかうのだけれど、本人は全然覚えてなくて、「ほんとですか？　どうもすみませんでした」と恐縮することしきり・・。とても仕事熱心な生徒にも好かれるいい教師でしたが・・・今頃どうしてるかなあ、あいかわらず三条河原町の辺りで号令かけてまわる名物オバサンになってるかもね。

奇癖ではあっても、こういうのはまだ「陽気な酒」「面白い酒」の部類に入るからいいですが、私の一番かなわないのは、「愚痴酒」と「からみ酒」です。（とても幸いなことに、私には「泣き上戸」「説教上戸」「暴れ上戸」「喧嘩上戸」の知り合いはいません）

人間、たまには愚痴も言わんとやっていけないものだから、素面の時は愚痴ぐらいなんぼでも聞くけれど、「お酒を飲んで愚痴を言うなよな」とは切に思います。これでつきあうのをやめた人もいます。結構男らしく見える、いい人ではあったのだけれど、一度「話があるんだが・・」と遠くまで呼び出された挙句、飲んで職場の愚痴をグダグダ聞かされて、心底イヤになりました。

また、その「からみ酒」が許せんので、もう金輪際一緒に飲むのはやめようかなあと思っている女の人もいます。なんでああなるのかなあ？　気分よく飲んでる人にからんで嫌なことを言っては座をしらけさせ、不愉快にさせる。もし今度やったら、「あんたには、お酒を飲む資格ないで！　そういう飲み方はお酒に失礼やろ！」と、きつく言って席を蹴って立ったろうか、とマジに考えているところです。そんな人は鴨川の河原ででもワオ〜ッと叫んでヌンチャクなと振り回して一人で発散してもらいたいもんです。



七期の仲間のお酒は、おおむね楽しく陽気な酒と言えると思います。若干、不安な噂も最近聞きましたが・・・酔うと枕を投げたり、寝てる人を起こしたり、人の布団にもぐりこむ人がいるらしい（実害は出ていない模様ですが・・・。ま、事実だとしても他愛なく可愛らしい酒ではあります）。

七期の仲間は、みんなお酒が大好きらしい。「酒はたいしたもんだ、有難いもんだ」という敬意を抱いている（たぶん）。酔うほどに談論風発、詩が出る、歌が出る（Ｙ社長のセリフ付き「人生劇場」は何遍聞いてもすばらしい。さすがに学生時代、この芸だけでずっとタダ酒を飲みとおしただけのことはあります。最近よく歌詞を忘れるのが珠にキズ）、踊りがでる、シャンソンが出る、相撲取りの形態模写が出る、速射砲のようなシャベクリが出る、たまにハーモニカ演奏も出る・・・ほんとに楽しいです。

このどれひとつも私の芸ではないところが、つらい・・・私のお酒はただただ飲んでいるだけです。（そういえば、Dr.BJのお酒も、お燗番をしつつひたすら飲む静かな酒でしたね・・）。私は、昔、「鯨飲が芸」だった時代もあって、当時ボートのライバル校だったＫＲ女子大の合宿所に乗り込んで、「主将対決ビール飲み比べ」をやって、なんとか競り勝った直後にぶっ倒れたこともあったけれど（なんともアホなアブナイことをしてたもんです、あきれます！）・・・それも今は昔。もう全然あきません。しんどい。早や「予定数終了」か、という気配です。今や中ジョッキ２杯が適量という、ごくささやかな可愛らしいお酒に成り下がってしまいました。（安上がりでよくなったワイ！）

お酒と自分らしく一生つきあって、自分なりのケリをつけるというのは、ほんとは結構難しいことかも知れないと思うようになりました。そのうちいつか、お酒が私に引導を渡してくれる時が来たら、今までの恩を感謝して毅然と引導を受けなあかんなあと、思っているところです。