「ノッコも呼んだげるわ。その他大勢だけどね」。奥方からお茶会の話が出たのは、いつのことだったでしょうか？　帰省の予定を組んでいた私に、日程を聞いて見ると、ばっちり。あらら、どうしましょ。

正式の招待状が届きました。明治神宮での明治天皇への献茶と、その後のお茶会。皇室の方も見えるとか。迷った末、殿と奥方の苦労の結晶を見過ごすのも勿体無く、帰省を延期。

松浦家にとっての大行事とは判っていますが、どうせ私はその他大勢の１人。ドサクサに紛れていればいいのでしょう。「出席させて頂きます。でも洋服でいいのよね？」と聞いたメールに、返事は、「殿の希望は着物。あくまでも希望・・・」

ギャー！びびって、すぐには出席の返事を投函できませんでした。

「なるべくご希望に添うよう、鋭意努力致しますです。でもですね、万が一ですね、無理な場合はお許しあれ。その場合は、友人としてではなく、そこら辺のおばさんが間違って入り込んだかのように、蔭でこっそり、殿と奥方の晴れ姿を拝見させて頂きます」と返事。

もう私の派手な着物は着られないから、母譲りの中から探さねばならず、どれを着ていいのか判らない。第一、しみが無いか、カビが生えていないか、ちゃんとした状態であるのかどうかさえ、点検しないと判らない状態。母のとなると、袖の長さが私の下着のそれと合っているのかどうか？　５０肩で１人では帯も結べず、着付けそのものも忘れちゃったし、困った困った！

着付けを習っていた頃は、しょっちゅう着て外出していました。結構上手だったのになぁ。着ないでいると、ぜーんぶ忘れちゃう！　何を習っても、そのときだけ。ちっとも身に付かない役立たず！　アー、自己嫌悪！

母に電話。着物、帯、帯締めなど、どれがよいか相談。母が揃えたものだから、よく覚えています。



着物は幸いよい状態で、下着との寸法も合っていて、問題ないことが判明。で、以前習っていた着付け教室を探して、電話。ベテランの先生が着付けてくださり、前日予約でもＯＫとのことで、とりあえず一安心。

ところが、安心したのも束の間、１週間前から､当日は雨との予報で、毎日見ていても、全く変わりません。泣きつく（？）私の質問メールに、「大雨ならお洋服でどうぞ。社殿までは車は入れないと思います」との奥方の返事。自分の立場がよく判らないだけに、着物か洋服か、Ｔｈａｔ　ｉｓ　ｔｈｅ　ｑｕｅｓｔｉｏｎ！の煩悶が始まりました。

いよいよ前日。その夜から雨になり、当日は夕方まで大雨、の予報。勧められたシルク用の防水スプレーも、日本橋まで買いに走りました。着付教室に問い合わせた結果、予約後、当日のドタキャンも可とか。

また母に電話。「もう洋服にさせてもらえば？　着慣れていない人は、跳ねを上げるし」「そうね、そうするわ」「雨ゴート､送ってあげたらよかったわね」。決心したのに、ぐじぐじ悩む。洋服の人が私だけならどうしよう？！

当日朝までに決断を下せる余裕のある方がよいと、夜９時、締め切り寸前に着付けを予約。予報どおり、既に雨が降り出しました。降ってから決心するのは矛盾しているのですが、土壇場で決断。主催者の顔を立てて、大雨でも着物にしましょう。タクシーで、行けるところまで行けばいいし。

またまた母に電話。最後の決断を話す。「そうね、もっちゃんの為にも､その方がいいわ。汚れたら汚れたで、洗いに出せばいいじゃない」。全て用意が出来ていた筈なのに、着物にアイロンをかけたりして、就寝は２時半。

当日朝。寝坊助の私が困らないよう、６時に夫が起こしてくれました。「晴れてるよ」と。奇跡！！！　よかったぁ､予約してなければ又悔やむところだった！　予行演習ではうまくいかなかった髪型も、不思議にするするとまとまり、教室へ。３０分も早くできあがり、明治神宮に悠々と到着。



殿にばったり。「ご苦労さまでしたね」と、逆に労われてしまいました。着物を着ていることを確認して頂いて、これだけでも充分値打ちあり。最後のお茶会では、これでその他大勢？宮様方から目と鼻の先でした。遠巻きに拝見する程度だと思っていたのに！　あんな場所に洋服では、貧相でお門違い。最後に奥方にも、「何だかんだ言って、綺麗なお着物、着て来たじゃない！」と言われ、やれやれ。

苦労した甲斐がありました。当日の気疲れと言うより、それまで気を揉んだせいか、その後３日ほど、疲れが取れませんでした。上の血圧、７４！