“Ｃａｎ　ｙｏｕ　ｓｐｅａｋ　Ｅｎｇｌｉｓｈ？”　“Ｊｕｓｔ　ａ　ｌｉｔｔｌｅ　ｂｉｔ．”と言ってしまった結果…。

上野の帰路、銀座で食事をすることになり、改札口に向かっている時でした。一緒にいた友人が、突然、腕をつかまれました！　そして、自分の持っている黒いカバンを指して、ギャーギャー言われて、何のこっちゃ？！と。

同時に、私には、最初の英語の言葉がかけられたのでした。ですから、腕をつかまれだの何だのと聞いたのは後のこと。Ｊｕｓｔ　ａ　ｌｉｔｔｌｅ　ｂｉｔもいいところの私。もう何年も英語を話したことなんかありません（書いたり読んだりはありますが）。

中国人らしい３人でした。若い男女とそれより少し年上の女性。電車の網棚に置いた荷物を忘れてきたと騒いでいるのです。目の前の係員に説明しても判らなくて困っていたようでした。

そこに、少しは英語の判る日本人の登場ですから、相手は離す筈がありません。しかも、私の黄色のバッグを女の子が目ざとく見つけ、無くしたカバンは「これと同じ色！」。大きさはもっと大きく、男の子の持っていた黒いカバンと同じくらいだとか。

最初女の子の言ったのは、ＪＲ渋谷で忘れたと。それではＪＲに行かねばならず、ここから１番近い駅は新橋（後から考えれば、有楽町かも）。仕方がない、連れて行ってあげよと、友達と一緒に、総勢５人で改札を出て、階段を上がり、数歩歩いたところで気付きました。じゃぁ、何で地下鉄に居たの？！



聞きなおすと、観光案内の本の「浅草」の箇所を見せ、そこから渋谷行きの電車に乗ったということが判明。男の子も改めて、「Ｇｉｎｚａ−ｌｉｎｅ！」と。そうだよね、変だと思った。相手にとっては、「銀座線渋谷」だろうと「ＪＲ渋谷」だろうと、同じだったのでしょう。私もいきなり英語の世界に入ったので、まるで「不思議の国のハッピ」。パニクッて、頭が回ってません！

改めて、改札口で、説明しました。改札を通してくれて、駅の事務所の場所を教えられたので、事情を話しました。中味も詳しく聞かれましたが、浅草でのお土産諸々で、お金は入っていないとか。時間的に、先ずそれらしき電車に聞いてくれました。ところが、結果は、無し！それから次々に、他の電車も問い合わせてくれています。

待っている間、彼女は、「良かった！英語を話す人に会えて！」と喜んでいました（恥ずかし！）。「急いでいませんか？」「ぜ〜んぜん！」（食事を予約してる訳でもなく、食べて帰るだけ）。

香港（の人ということが判明）に来たら案内するからと、名刺を渡され、良かったら、私の電話や住所も書いて欲しいと。そうこうするうち、期待も空しく、どこにも無いという報告。

その日の忘れ物は、全て上野のセンターに届くとのこと。「持って下りた乗客が、自分の乗換駅で届けたりすることもありますからねぇ」と駅員。明朝上野に電話して、あれば、上野に取りに行く必要があるとのこと。



上野の遺失物センターの地図を貰って、場所を説明していたら、係りの人は親切にも言いました。「上野で、また１から説明するのは大変だから、私の方から電話で説明しておきます。見つかったら、それを、銀座か渋谷で受け取れるように手配します」。そこで、ホテルの名前や、携帯の番号を知らせました。

翌日は渋谷でショッピングだと言っていたので、渋谷で受け取れるようにお願いし、遺失物係の地図は、と聞くと、「見ても難しいですねぇ。渋谷で係員に聞いて下さい」とのこと。

「明日無かったら、もうだめってこと？」と、彼女はがっかりし、みんなで諦めて事務室を出ました。でもやはり、渋谷の遺失物係りの場所が不安らしく、「地図を貰って、周りの日本人に見せて教えて貰う！」と言い出したので、また戻ったのです。

先程の人が電話中なので他の人にそのことを言いました。「今電話をしてるので、ちょっとお待ちください」。たった１枚の地図を貰うのに、その人じゃ判らないのかしら、と思いつつ、長電話を待っていると…。

「上がってきたみたい」と、電話を切った途端、係りの人は言いました。「中味もあってます」。
「見つかった！」「よかったー！」「ラッキー、ラッキー！」女の子は友達とも私とも抱き合って大喜び！

その係員は、最後まで大サービスでした。渋谷行き、２両目の１番前に乗れば、渋谷の係員をプラットホームで待たせる手配までしてくれたのです。そこで、こちらも説明はしたものの、最後の最後まで面倒を見ようと、指示通りの場所に、乗せたのでした。既に改札の中での話なので、切符を買えず、気にする彼女に、「また説明しておくわ」。彼女達は、何度も大きく手を振って、別れていきました。



また事務室へ戻り、切符の券を説明。係員も早速渋谷に連絡。後から考えれば（こればっかり！）、その日の内なら銀座で受け取った方が便利でした！係員も、それに気付かなかった訳で、親切な割に、２人とも抜けてました。

「東京メトロに変わったのは、ついこの間でしょ？」と、途中で友人が言った時、どうしてそういうのか判りませんでしたが、駅員が親切なのは、民営化されたからだ、ということでした。よく頭の回る人です。

「私達のことね、きっとあの人達を案内してる日本人だと思ってたと思うのよ。だから言っといたの。“私達ね、ただの通行人なんですよ”って。“あっ、そうなんですか！”って。“係員の人が英語が通じないから、連れてきてあげたのよ”って言ったら、“すみません”って、謝ってた！」

私は、香港の人、駅員、友達の言うことを、最低限の通訳ながら、あれこれ説明しなければならず、いつの間に、友達がそんなことを話したのか知りませんが、後から聞いて大笑いしました。

親切心だけは持ち合わせている私達、ちょっぴりの英語と、お誂え向きの黄色のバッグ、おまけに時間たっぷりの状況、と来たら、まぁ、助けてあげなさいと言われたようなものですね。

さび付いた英語でも、何とか他人の役に立て、嬉しい限りです。今日気になって、東京メトロに確認の電話を入れたところ、後から連絡が来て、言葉の問題はあったものの、渋谷で確かに彼女達は黄色いカバンを受け取り、感謝していたということでした。やれやれ！