東京に住む伯母（母の姉）は８０歳の頃から認知症です。現在９２歳。前回訪問したときは、身体は元気で、昼間椅子に座り、ニコニコと、意味の無い（本人には意味がある？）話を続けていました。「そうなの？へー！」などと、話を合わせていると、部屋に入ってきた伯父に向かって、「楽しいんですって！」なんて言われてしまいましたが。

今回、母が上京できる境遇になり、母にとっては１０年ぶりくらいでその伯母を訪ねると、殆ど１日中ベッドの中で過ごすようになっているとのこと。丁度目覚めたところでご機嫌と言うので、ベッドへ行くと、母の手を取り、自分の頬につけて離そうとしませんでした。妹だという判別はついていなくても、気持ちの通じるものがあるのでしょう。母は長い間、泣き続けていました。

この伯母の面倒を見ているのは、他ならぬ、夫である伯父。９４歳くらいだと思っていたら、なんと、現在９９歳と３ヶ月とのこと！　頭も極めてしっかりしていますし、痩せていますが、身体も元気です。耳が少し遠くなった、と言っていましたが、たまに聞き返すことがあるくらいで、普通の声の大きさで充分。

戦時中、確か２等兵で、深夜、敵に見つからないよう、重い荷物を背負って匍匐前進した様な事を聞きました。幸か不幸か、その体験が鍛錬になったのかもしれません。

今では、介護の人が週２回来て食事を作ってくれたり、お嫁さんが運んでくれたりしてはいますが、３度の食事とおやつの度に、それを器に盛り、食べさせるのは伯父。伯母がベッドで過ごすようになる前は、朝晩の着替えから全て伯父自身がやっていました。

昔から几帳面な性格で、伯父が出張すると、家中の目覚まし時計が止まる、と言われたほど。私が子供の頃、冬に泊まりに行った際、伯母と一緒に私の寝床の用意をしにお座敷へ行くと、既に寝具が敷かれており、電気毛布までセットしてくれていたことがありました。

伯父が夜中に目覚めると、伯母がベッドの中で、頭の向きがさかさまに眠っていることがあるそうです。すると、起き上がって抱き起こし、「ちゃんとこっちに寝ようね」と、向きを元通りにしてあげるとか。どっちを向いて寝ていようが、本人に別状は無いと思うのですが、伯父自身がそれをしないと気が済まないのでしょう。

「老人ホームに入れようかと思ったこともあるけど、可哀想でしょ？」と言うのですから、愛情深い人です。伯母は、わがままも言わないし、可愛いおばあさん。全く何も判っていない認知症でありながら、世話をしてもらったときに、時々、「ありがとう」と言うそうですから、そんな気にもなれるのでしょう。

普段全く外出できない伯父のたった一つの楽しみは、世話役をしている大学時代の同期会。前もって日時が決まるので、その時は、留守番を頼んで出かけるのです。そんな高齢者の同窓会って成り立つの？と思うでしょ？　同級生は男性だけですが、夫婦で出席する人も多かった時期を経て、今では夫を亡くした奥様も出席なさるそうです！

来年３月には満１００歳！　「老人の鏡」の伯父を、どんな風にお祝いして上げましょうか。